増幅回路

 

ここからは電子回路について説明していきます。やや高度で専門的な話になって行きますので、理解が難しくなる可能性がありますがメゲずに読んで下さい。聞きなれない用語が出てきます。その場合はそういう具合に言うんだと理解して下さい。できるだけ解かりやすく説明して行くつもりですが、分からないところは知ってそうな人に解説を求めるとか、筆者にメールするとかして理解に努めることが大事です。できるだけ易しく返事するつもりです。

 

ここで説明しているのはあくまでも原理ですので、これで回路の設計や解析ができるとは考えないで下さい。

具体的な設計手法については我孫子おもちゃの病院のホームページにある「解かった気がするトラジスタ回路の設計」をご覧ください。

 

目次

1.概要.. 2

2.諸元.. 3

  2.1 増幅率.. 3

  2.2 デシベル.. 3

3.インピーダンス.. 3

4.接地方式.. 5

5.増幅回路の動作原理.. 6

6.バイアス方式.. 9

  6.1 固定バイアス.. 9

  6.2 自己バイアス.. 10

  6.3 電流帰還バイアス.. 11

7.級(動作級).. 11

8.代表的な構成方式.. 12

  8.1 シングル.. 12

  8.2 プッシュプル.. 12

9 帰還.. 12

10.用途による分類.. 12

 

増幅回路(ぞうふくかいろ)とは、信号の増幅機能を持った電子回路です。

 入力信号により能動素子の動作を制御して入力信号より大きなエネルギーの出力信号を得るものです。電気的(電子的)なものの他に、磁気増幅器や光増幅器などもありますが、ここでは電子回路のみについて説明します。シンボルは下図の通りです。

 

増幅回路は前述のようにエネルギーを大きくした信号を取り出すものを指すので、トランスのように電圧の上げ下げだけ、電流の上げ下げだけの場合は電力(=電圧×電流)としては大きくはならないため増幅回路には含みません。

 

1.概要

 バイポーラトランジスタでは入力電流の小さな変化が、電界効果トランジスタ(FET)や真空管では入力電圧の小さな変化が、出力電流の大きな変化を生むという特性があります。

 この特性を利用して信号の電力を増大するのが増幅(電力増幅)です。回路の狙いが出力側の負荷を駆動する信号の電圧を増加させることにある場合は電圧増幅と呼び、電流を増加させることにある場合は電流増幅と呼びます。

 増幅を行うと入力に与えた信号のエネルギーが増大しますが、それは増幅素子自身が出力信号としての電気エネルギーを生み出しているのではなく、弱い入力信号のエネルギーを用いて回路に外部の電源から供給される電気エネルギーの流れを制御することにより大きな出力信号を作り出しているのです。

 

前述したように一般に増幅器は信号を大きくします。つまり増幅器が取り扱う対象は交流信号であって直流ではありません。では直流の電圧や電流はどのような役割があるのでしょうか?

 直流の電圧は増幅器の中核となる能動素子が動作するポジション(動作点と言います)を決めるのに使われます。電流は能動素子(トランジスタ、FETや真空管)に増幅の基となるエネルギーを与えます。これによって増幅器はその役割を果たすことが出来るようになります。

 また、一つの増幅器を一般的に「段」と言う言い方をします。段のなかにはトランジスタやFET、真空管のような能動素子が含まれますが必ずしも能動素子が一つでなければならないという制限はなく、数十個、数百個が含まれている場合もあります。増幅と言う機能を実現するものであれば一括りにして「段」と表現することが出来ます。一つの増幅器で全体が終わるものは単段構成といい、複数の段をつなげて増幅器とする場合は多段構成と言います。

 多段構成では、段ごとに役割を与えて、まず電圧増幅や電流増幅を行って、最終段の電力増幅段で出力を取り出します。最終段をファイナル段や電力段、電力段を駆動する段をドライバー段などとも呼びます。

 

多段増幅器(シンボル化したもの)

2.諸元

 

2.1 増幅率

 

増幅回路の諸元としては、まず増幅率が挙げられます。増幅度利得と呼ばれることもあります。いずれも(出力)÷(入力)の値として定義されます。増幅率には主な増幅の狙いを中心にして次のような呼び方をします。

 

  •     電力増幅率(出力電力が入力電力の何倍になっているか)
  •     電圧増幅率(出力電圧が入力電圧の何倍になっているか)
  •     電流増幅率(出力電流が入力電流の何倍になっているか)

 

先に述べたように増幅回路は電力の増幅をすることが目的ですので、増幅回路であれば電力増幅率は1より必ず大きくなりますが、電圧、電流については1より小さくなることがあります。

 また、増幅率は大きければよいと言うものではなく、必要な増幅率は設計者が決めるものです。

 

2.2 デシベル

聞いたことのない単語が出てきました。増幅率は直接「何倍」といったように表現(真数)をするほか、対数(デシベル[dB])で表現することも多くあります。

 

デシベル表現であれば、増幅回路を何段も重ねて接続した場合のトータルの利得が各段の利得の総和として表せることから扱いに便利なので技術者の間では一般的に使われます。(足し算なので設計者が頭の中で簡単に計算できる) また、真数では桁数が多くなります場合でもデシベルだと殆どの場合2桁以下で表せます。

 

その他、増幅回路の諸元として、入力インピーダンス、出力インピーダンス、周波数特性(f特)、出力効率(電源から供給される電力に対する出力電力の比)、歪率、NFP1dBIP3等がありますがここでは単純にそのような用語があったなぁ位に認識して下さい。

 

3.インピーダンス

 ここからが若干理解しにくくなるところです。読み飛ばしても結構です。

 まずコイルに電流を流すと電界と磁界が必ず発生します。このうち磁界は状態が変化することを嫌い、現在の状態を維持しようとします。磁界は電流に強く関係していますので、コイルの中を流れる電流の変化を妨げるような働きをします。

 コンデンサは直流の場合のように電流の流れを堰き止めるのではなく、電流の変化を受けて邪魔をしながらも電流の変化を伝えていくような働きをします。

 このコイルの電流の変化を妨げるような働き、コンデンサの邪魔をしながらも電流の変化を伝えていくような働きをインピーダンスと言いい、あたかも直流回路における抵抗のような働きに例えて取り扱います。

インピーダンスとは電気回路の交流特性を表す物差しです。(純)抵抗の場合は電圧の変化とそこを流れる電流の変化は同相でありその比は一定なので単純に絶対値だけで判断できます。これに対し交流回路におけるコイル、コンデンサは直流回路におけるコイル、コンデンサと振る舞いが違います。

まずコイルはコイルに与える電圧が変化すればコイルの中を流れる電流に変化が生じます。しかしコイルは磁界を持っていてこのためのエネルギーを蓄えていますので磁界が変化しないように電流を制御しようとします。つまり電流を変化させないように働きます。

 

左図を見てください。青の線はコイルに加えられている電圧の変化を表しています。電圧の増加が止まって減少に移る点(A点)では橙色で表される電流は「0」(A’点)となっています。さらに進むと電圧は減少し続けているにもかかわらず、電圧を減少させまいとして電流は増加し続けています。電流の増加が止まる(B’点)のは電圧が「0」(B点)になった時であり、逆方向に電圧が印加される事態になってようやく電流が減少を始めます。この結果、電流の変化は電圧の変化に対して位相が遅れることになります。(青線:電圧の変化、橙破線:コイルを流れる電流の変化)

 

コンデンサの場合は何もない状態においてコンデンサに電圧を加えると僅かな電圧でも大きな電流が流れます。電流が流れることによってコンデンサに蓄えられた電荷が増えると電流は減少していきます。電圧の増加が止まるとそれ以上電荷は増えることが無いため、電位は高いにも関わらず電流は流れなくなります。従って、コンデンサを流れる交流電流は電圧の変化に対して位相が進みます。(青線:電圧の変化、緑破線:コンデンサを流れる電流の変化)

 

インピーダンスは「Z」で表現されます。

 

抵抗の場合はZ=Rですが、コイルの場合はZ=XL=jωL、コンデンサの場合はZ=XC=1jωCと表されます。

 

ここで「j」は複素記号で、一般には「i」が用いられますが電気、電子回路では電流の「i」と紛らわしいので「j」を用います。

 

ωω=2πfと表され、周波数の関数ですのでコイルでもコンデンサでも周波数が変わればインピーダンスは変化することになります。

 

電圧と電流の関係における位相が周波数に関連するだけではなく、更にその比が一定でないため、インピーダンスは純抵抗のように絶対値だけでは判断できず複素平面上におけるベクトルの動きとしてとらえる必要があります。

 

交流回路の設計、解析ではすべてこのインピーダンス(Z)を使って行われます。

 

増幅器は信号を大きくして次に渡すのが仕事ですので、うまく信号をやり取りすることができなければ増幅器としての意味がなくなる可能性があります。この場合のインピーダンスは道路にある段差だと思ってください。

段差がない場合(インピーダンスの整合が取れている状態)は道路上の車は快適に前に進むことができますが段差があれば(インピーダンスの整合が取れていない場合)段差を乗り越えなければ前に進むことができません。また乗り越えるときにエネルギーを消耗してしまいます。そのためにインピーダンスを整合させなければならないのです。

 

 

 

但し、おもちゃの世界で扱われるような増幅回路の場合は必ずしもインピーダンス整合を厳密に考えなくても良い場合があり、特に音声信号領域では「ハイ受、ロー出し」と言って入力回路はハイ・インピーダンスで、出力回路はロー・インピーダンスで設計しておけば回路の動作において大きな不具合は起きません。

また、電気エネルギーから他のエネルギーに変換する時は特にインピーダンス整合が重要になります。この場合は厳密にインピーダンス整合を図らなければエネルギーの受け渡しが行えない、損失が大きくなるなどの不具合が生じます。具体的には送信機からアンテナへ、つまり電気エネルギーを電磁気エネルギーに変換する場合やスピーカーのように電気エネルギーから音響エネルギーに変換する場合は本当に重要で厳密に整合を図る必要があります

4.接地方式

増幅回路では入力と出力に何らかの共通の基準を設けないと何倍になったと言っても何のことやら意味を持たなくなります。そこで、通常は入力と出力に共通となるものを設け、そこを基準に何倍になったと考えます。

 

シンボル的には左図のように表します。左側が入力、右側が出力となります。このシンボルは増幅機能を持つものであれば全てこれで表すことが出来ます。但しトランジスタやFET、真空管が1個とは限りません。

 

トランジスタやFET、真空管を増幅回路に用いる場合、3本の電極を入力、出力、共通線(接地と言いますがアースではありません。)にどのように振り分けるかによって、増幅回路の特性が大きく異なります。トランジスタでは、接地する電極を基準としてエミッタ接地回路Common emitter)、コレクタ接地回路Common collector)、ベース接地回路Common base)の3種類があります(真空管はエミッタ・コレクタ・ベースをそれぞれカソード・プレート・グリッド、FETはソース・ドレイン・ゲートに読み替えます)。

 

それぞれの回路は次表のような特徴があります。

5.増幅回路の動作原理

ここでは増幅回路の動作原理について説明していきたいと思います。Fig-1は最も基本的な回路構成でバイポーラトランジスタと抵抗からなっており、エミッタ接地増幅回路と呼ばれる回路です。

図中、GND はグランド(またはアース、接地)、 Vccは電源を表します。ここで、 Vin を入力電圧(入力する信号電圧ではなくベースに入力される電圧の全て)、 Vout を出力電圧としたときの入出力特性について考えてみます。

 

Fig-2 (a) のように Vin が大きくなるに連れてトランジスタに流れる電流も大きくなります。このトランジスタに流れる電流は、抵抗にも流れます(Fig-1  Ir )。

 

 

このとき抵抗rの両端にかかる電圧を Vr とすると、「オームの法則」 V=R×Iに従って Vr Fig-2 (b) のようなグラフになります(V:電圧、I:電流、R:抵抗値)。電流 Ir の増加とともに抵抗の両端間の電圧 Vr も大きくなっていきます。

 

さて、以上のことを踏まえてFig-1 の回路の動作を考えてみましょう。

 

Fig-1の出力電圧 Vout は、電源電圧 Vccと抵抗の両端にかかる電圧 Vr を使って Vout = Vcc - Vr と表せます。これを図で表すとFig-3 のようになります。

 

まず、入力電圧 Vinを増やしていくと0V からVbeまでの間はコレクタ電流が流れないため、コレクタ抵抗での電圧降下は発生せずコレクタ抵抗の両端にかかる電圧 Vr Fig-2 (b) からも分かるように Vr = 0 です。よって、出力電圧 Vout Fig-3 (a) のように電源電圧 Vcc となります。

 

電圧 Vin を更に大きくしていくと(VinVbe0.6V)トランジスタに電流が流れ始め、コレクタ抵抗の両端にかかる電圧 Vr も増加していきます。そのため Vout = Vcc - Vr より、Fig-3 ( b) のように Vout はどんどん低くなっていきます。

 

さらに電圧 Vin が大きくなるとどうなるかというと、Fig-2 (b) のように Vr が大きくなり続ける訳ではありません。トランジスタに流れる電流は、コレクタ-エミッタ間の電圧が小さくなると、あまり増えなくなるという特性を示します。よってFig-3 (c) のようになります。またVrVccよりも大きくなることはできませんので、最終的には Vout  0V に近づいていきます。

 

さてFig-4 を改めて見てみると、赤線の部分は比較的直線的な変化をしていて傾きが大きいことに気づきます。

 

この傾き A を利用することにより、入力電圧と出力電圧の関係 Vout=A×Vin を実現することができます。つまり、入力電圧を増幅することが可能となります。Fig-5 に具体的に電圧増幅の様子を示します。

 

Fig-5 (a)  Vin = Vb1 を中心に正弦波(サイン波)を入力したときの出力の様子を示しています。この Vb1 バイアス電圧(または単にバイアス)と言います。それに対して、正弦波の方を信号電圧(または単に信号)と言います。バイアス電圧を中心に信号電圧を入力することにより、増幅された出力電圧を得ることができます。

 

Fig-5b)に入力電圧と出力電圧をグラフに示します。エミッタ増幅回路は、出力電圧が入力電圧を反転して増幅した波形になるという特徴があります。

 

また、入力に信号成分を入力せずにバイアス成分のみ与えた時の、回路の各点の電圧のことを動作点と言います。Fig-5 のエミッタ増幅回路の例では Vb2 が動作点となります。

 

増幅回路では、適切な動作点を得るためにバイアス電圧を与えなければならないということが重要なのです。

 

もしバイアス電圧が低すぎたり、高すぎたりするとどうなるでしょうか?

 

 

例えばFig-6a)や(b)のようにバイアス電圧が適正でないと出力電圧が歪んでしまいます。これは入力された信号電圧が、エミッタ増幅回路の「直線と見なせる範囲」(赤線の部分)を超えてしまったためと考えてください。

増幅回路においては直流における電圧配分でその能動素子(ここではトランジスタ)が動作をするための必要な動作点を決め、その動作点において交流の信号を必要な値にまで増幅できるようにします。

 

このため、おもちゃの場合のように電源電圧が単3電池2個(3V)位の場合は設計の自由度が制限され非常に難しくなる場合が多くなります。

 

6.バイアス方式

 

0V0Aから正負対称にリニア(直線的)に増幅動作してくれる素子があれば理想的ですが、実際の能動素子である真空管もトランジスタもそのようには動作しません。そこで入力を常に一定の電圧で偏らせたり一定の出力電流に調整したりすることを「バイアスをかける」と言います。

 

バイポーラトランジスタの場合入力が0Vではオフの状態です。

 

先ほど説明しましたがNPNシリコントランジスタではエミッタ、ベース間の電圧(Vbe)が≒0.6Vを超えないとベース電流が流れません。すなわちエミッタに対してベースの電圧を0.6Vだけ高くしてやらないとトランジスタとしての働きを始めることが出来ないのです。ここでエミッタ・ベース間の電圧とはグランドに対するベースの電圧ではありません。エミッタに対するベースの電圧です。ベース電流が流れ始めるまでベース電圧を持ち上げることが、「バイアス電圧をかける。」ことになります。

 

バイアスのかけかたには以下のような方式があります。エミッタ接地方式で説明します。

 

6.1 固定バイアス

 

固定バイアスは、信号の大小にかかわらず、常に一定のバイアス電圧か、ほぼ一定のバイアス電流を入力にかける方法です。

電圧をかけるには例に示した回路図Fig-7のようになりますが、このようにすると0.1Vより細かい精度で電源電圧の調整が必要な上、入力信号の基準電圧を底上げする必要もあり普通あまり実用的ではありません。

また熱特性の影響を顕著に受け、温度によって動作が不安定になります。(VBEは熱依存度が高く2mV1℃位の影響を受ける。)

 

実用的には右のFig-8のようにします。

バイアス抵抗の値は次のようにして決めます。

① まず、無信号時のコレクタ電流をたとえば1mAと決めます。

② 次に、トランジスタの直流電流増幅率hFEがたとえば100であれば、

 

IC=hFE x IB

 

IB=IC÷hFE=1mA)÷100=0.01mA

 

従ってベース電流は0.01mA(10μA)となります。

ベースの電位は約0.6Vになりますので、電源電圧を電池2本の3Vとすると、オームの法則により、

 

バイアス抵抗の値=3 - 0.6 / 0.00001=240,000=240KΩ]となります。

 

実際に作る際は入手可能な抵抗の値から選ぶ必要があり、設計では負荷抵抗(回路図右の出力-電源間の抵抗)の値の決定も必要です。正確な設計には、結構バラつきの大きい個々のトランジスタのhFEに依存する点が問題ですがバイアス抵抗の値が大きめになりますので、ベースのバイアス電流が増えるとバイアス抵抗での電圧降下が大きくなってベースの電位が下がる、という特性があるため、Vbeの変動に対しては比較的安定です。

 

6.2 自己バイアス

自己バイアスは出力からその一部を入力に戻す形のバイアス方式です。反転増幅回路なので負帰還です。

 

Fig-5b)で説明しましたが、エミッタ接地増幅器では入力信号に対して出力信号の位相が180度遅れて現れます。この現象を指して反転増幅と言います。

 

設計は以下のようにします。

 

エミッタ接地回路では、電源電圧を負荷抵抗RLとトランジスタのコレクタ-エミッタ間電圧(Vce)で分圧して出力電圧を取り出すわけですが、無信号時のRLによる電圧降下が電源電圧の1/2から2/3程度になるようにするのが一般的です。(出力電圧の最大振幅が最も効果的に取り出せるように設定します。)ここでは2/3と決めたとします。すると無信号時のコレクタの電位は電源電圧を3V]とするとv/3=1V]となり、ベースとの電位差は1 - 0.6=0.4V]となります。hFE100、コレクタ電流を1mAとするとベース電流は0.001 / hFE=0.001/100=0.00001A=10μAですので、オームの法則により、バイアス抵抗は (1 - 0.6) / (0.001 / 100)、整理して (1 - 0.6) * hFE / 0.001=1-0.6*100/0.001=40]となります。

 

帰還は以下のようにして働きます。コレクタ電流が増えたとすると、コレクタの電位は低下します。するとバイアス抵抗にかかる電圧が低下しますので、ベース電流が減ります。ベース電流が減れば結果としてコレクタ電流が減ることになり、回路としては一定の増幅率を保つことになります。

 

6.3 電流帰還バイアス

電流帰還バイアスは、エミッタ接地の場合はエミッタに抵抗が入ることが特徴です。 図におけるReがエミッタ抵抗です。 負帰還の特性があり、温度安定性が高い、増幅率が抵抗の比で決定される、hFEのバラつきにかかわらず設計できる、などの利点があります。

 

負帰還の作用は以下の連鎖になります。

 

  1.   コレクタ電流が増える
  2.   エミッタ電流が増える
  3.   エミッタ抵抗の電圧が上がる
  4.   エミッタの電位が上がる
  5.   (ベース電位が一定であれば)ベース-エミッタ間電圧が下がる
  6.   ベース電流が減る
  7.   コレクタ電流が減る

 

電圧増幅率は、ほぼ RL/Re になります。

 実際の設計では制約条件によりさまざまですが、以下に抵抗値の決定の一例を示します。

 

  1.   シリコンバイポーラトランジスタの Vbe1℃あたり約2mV変動します。アイドル時のコレクタ電流を1mAとし、温度変動50℃でコレクタ電流の変動を10%以内に収めるには、Re1kΩとなります。
  2.   増幅率を10倍とすると、RL10kΩとなります。
  3.   コレクタ電流が1mVRe1kΩなので、エミッタ電圧は1.0Vとなります。Vbe0.6Vとして、ベース電圧が1.6VになるようにR1R2で電源電圧を分圧する。安定した動作のためには、ベース電流(=コレクタ電流÷hFE)の10倍以上の電流がR1R2を流れるようにします。

 

7.級(動作級)

 

ここでは増幅回路の、特に素子の動作を指しての級について述べます。

 素子の動作が入力信号の振幅の全てを受け入れて増幅した後、すべてを出力する時その素子はA級で動作していると言います。入力信号の正の半分だけを受け入れてそれを出力する場合はB級となります。C級は正の振幅の更に少ない部分だけを増幅します。この他、A級とB級の間の動作をAB級と言います。

 

これで分かる通り、音声信号の増幅にはA級だけが用いられます。プッシュプル動作をさせる場合にはB級或いはAB級動作をさせる場合もあります。C級動作は無線で用いられます。

 

効率はA級<AB級<B級<C級の順に良くなります。

 

D級より先の各級はバイアスを基準として名付けられたものではなく回路の動作原理が他の級とは異なっていると言う事を明示するために便宜的に「級」と名付けたものです。

 

8.代表的な構成方式

 

8.1 シングル

 1個の増幅素子で信号を増幅する回路で、もっとも基本的な増幅回路です。

正負対称の増幅を行うためにはA級増幅回路とする必要があります。

 

8.2 プッシュプル

 2個の増幅素子を正負対称に接続して、それぞれ一方の極性の信号のみを増幅する方式がプッシュプルです。

 基本的にはバイアスはB級としますがA級で動作させる場合もあります。

 

9 帰還

 

実際の増幅回路では、回路の特性を改善する為に負帰還(NFB, Negative Feed Back)を掛けて用いる事が多くあります。

 

負帰還とは、出力信号の一部を入力に戻し、入力信号と逆位相で合成する事によって、出力の振幅を抑えて増幅回路の特性を改善するために使われる技術です。負帰還によって回路の増幅度は低下しますが、広い周波数帯域にわたって均一な増幅度が得られます。増幅回路の増幅率が十分に大きければ、負帰還を行ったときの増幅率は帰還率によって正確に決まります。出力信号の全てを入力に負帰還させると、増幅率は1となります。

 

出力信号の一部を入力に戻し、入力信号と同位相で合成するものを正帰還(PFB, Positive Feed Back)と呼びます。 出力信号が帰還されて入力信号を増大させ、それが増幅されて帰還され……を繰り返すので、正帰還はその量により発振を引き起こします。

 

10.用途による分類

 

増幅回路を扱う周波数で分類すると、次のように分類できます。

 

  •     高周波増幅器(可聴周波数より高い周波数域、RFアンプ・映像増幅・無線周波増幅とも)
  •     低周波増幅器(可聴周波数域、AFアンプ、音声増幅、オーディオ増幅とも)
  •     選択増幅器(特定の帯域のみを選択して増幅するようにしたもの)
  •     中間周波数増幅器(IFアンプ)(スーパーヘテロダイン方式などで。周波数帯としては通常高周波帯で、ラジオの受信周波数にかかわらず一定の周波数だけを増幅するもの)

 

直流までも増幅するアンプをDCアンプといいます。直流アンプの意味でもあり、入力トランスやコンデンサを通さず入力を直接受け取っている(Direct Coupled)という意味でもあります。オペアンプはDCアンプです。