スイッチング回路

電流(電源ではありません)のON/OFFを行いたい場合はスイッチング回路を用います。
スイッチ回路には各種の機械的なスイッチを用いる場合とトランジスタ、FET、ダイオードなどの素子を用いる場合があります。
機械的なスイッチについてはこの「いまさら聞けない・・・・第12回その他の部品 6スイッチ」に詳しく述べていますのでそちらをご覧ください。
機械的なスイッチについては定格があって、それを超える条件での使用は故障、破損する恐れがありますので定格を超える使用は現に慎まなければなりません。
また、機械的なスイッチは大きさや形により筐体に上手く取り付けられない場合もあります。
この様な場合、スイッチの遠隔操作を利用します。小さなスイッチで離れたところの大きなスイッチを操作すると言う事になります。このような場合大きいほうのスイッチには一般的にリレー、半導体スイッチを使用します。
スイッチング回路はディジタル回路の最も基本的な回路ですので興味のある方はぜひ勉強されることをお勧めします。


1.リレー回路
遠隔操作できる機械的なスイッチの代表がリレーと呼ばれるものです。

   Fig-1

上図(Fig-1)の入力側コイル端子に制御電流を流せば繋がっているコイルに電流が流れ、鉄心が磁化することによって接極子が吸引されます。
接極子が吸引されると接極子に固定されている可動接点が図では下方向に動き、下の固定接点と接触すると同時に上部の固定接点の接触が解放されます。
つまり、下部の固定接点の回路はONとなり、上部の固定接点の回路はOFFとなります。
入力側コイル端子に流れている電流を停止すれば、鉄心の磁化力による接極子の吸引は止まり、復旧バネによって接極子は元の位置に戻ります。結果として可動接点と下側の固定接点の接触は切り離され、出力側接点端子は下側がOFF、上側がONになります。
2次側に掛かる電圧と電流が如何に大きくても(リレーの定格以内であることは勿論ですが)1次側に掛かる電圧と電流は小さいものですので操作する人間に危険を及ぼすことはありません。
おもちゃの世界ではリレーはあまり見ないと思いますが、基本として知っておいてください。

 

2.トランジスタのスイッチング回路

 

リレーを使ったスイッチング回路とほぼ同じことをトランジスタ(FET)を使ってさせることも出来ます。
Fig-2a において、トランジスタ(2SC1815)のベースに接続されているSW をON すればRb(10KΩ)を通してベース電流が流れます。トランジスタはベース電流のhFE(※)倍のコレクタ電流が流れますので、この
コレクタ電流によってコレクタに接続されているLED(RED とあるのは赤色の意味)に電流が流れ、LED を赤色に発光させます。


※hFE:直流電流増幅率です。コレクタ・エミッタ間に流れる電流とベースに流れる電流との比です。


hfe と間違えないで下さい。hfe は交流の増幅率です。但し、回路構成や増幅したい周波数に大きく左右されるので単純にhFE と比較することはできません。
SWをOFF にすればベースに電流が流れませんのでコレクタ電流も流れなくなり、LED の発光は停止します。これがトランジスタによるスイッチングです。スイッチで表わせばFig-2b のようになります。
トランジスタのベース回路に必要な電圧はたかだか0.6V、数十μA ですから微々たるもので危険性は全くないと言って良いでしょう。ここでLED の代わりにリレーを挿入しても同じことになります。
特に最近の電子回路ではスイッチングの引き金としてマイクロコンピュータを含むディジタル回路の出力を直接使用することも有りこのような使い方があちらこちらで見かけるようになってきています。
ディジタル回路の出力はパルスなので振幅はそれなりにあるものの出力電流は極めて小さいため機械的なリレーを直接駆動することには向いていません。トランジスタを使ったスイッチング回路を駆動することは容易
です。Fig-3 はディジタルIC のからの信号で超高照度LED を点灯する回路です。(LED ドライブ回路)

リレーを使う
前にでてきたリレーもこの回路で作動させることができます。(リレードライブ回路)

 

この様な使い方ではリレーでON/OFF する回路とトランジスタ回路は完全に分離していますから、極端な話しリレーの2 次側(スイッチ側)に数百ボルトの電圧がかかるような場合でもリレー制御用のトランジスタや、
更に前段のディジタル回路やマイクロコンピュータ回路に影響が及ぶことはありません。
トランジスタによるスイッチングは極めて高速(マイクロ秒からナノ秒)で行うことが出来ますがリレーは精々ミリ秒なので高速にスイッチングを行いたい場合はリレーではなくトランジスタ・スイッチングを使用します。


3 自己保持回路
リレー或いはトランジスタを用いてスイッチ動作をさせる場合、その引き金はスイッチによって行われています。機械的なスイッチの動作には「いまさら聞けない・・・・第12 回その他の部品 6 スイッチ」で述べているようにオルタネート動作とモーメンタリー動作があります。
オルタネート動作の場合にはON 或いはOFF になるとその状態を維持しますがモーメンタリー動作の場合には遷移した状態を維持することが出来ず、すぐにOFF(一般的な場合)またはON(ノーマリーON の場合)に戻ってしまいます。よく見かけるプッシュスイッチやタクトスイッチなどは基本的にモーメンタリー動作なので、こうなると折角リレーやトランジスタをつかってスイッチングをしたのにその状態を維持できないこと
になります。
スイッチングした状態を維持するための回路を自己保持回路と言います。

Fig-5 でメインスイッチ(S1)が「ON」になるとリレーのコイルが励磁されスイッチ部の可動接点がこの図では下方に引かれます。そうするとスイッチ部のC 接点と固定接点のNO 接点が接触し、同時にNC 接点とC 接点は切り離されます。
ここで使用されているリレーは2 回路2 接点と呼ばれるものでスイッチ部の一つは自己保持のために使われています。
S1 がON になってリレーが励磁されると接点部1はC 接点とNO 接点が接触します。
この接点はS1 と並列に接続されていますのでS1 がOFF 位置になっても励磁電流は流れ続けるため接点部2はC 接点とNO 接点は接触を続けることになります。
つまり S1 で一旦励磁されたリレーはその後S1 がOFF 位置になっても励磁された状態を保持することになるため「自己保持」と呼ばれます。
自己保持された状態を解除してリレーを非励磁状態にするためにはRESET スイッチを操作して励磁電流を切断する必要があります。このような回路ではS1 及びRESET スイッチにオルタネート動作のスイッチではなくモーメンタリー動作をするスイッチを使うことが出来ます。
基本的に自己保持回路はリレーを使った回路で実現され適用されることが多いのですがトランジスタを使った回路でも実現することが出来ます。後述する双安定マルチバイブレータでFig-3 或いはFig-4 の回路を駆動する場合を考えてみます。

Fig-6 でプッシュスイッチを1回押します。そうするとQ1、Q2 で構成される双安定マルチバイブレータの出力はHレベルになります。双安定マルチバイブレータは次のトリガ信号が与えられるまで一旦遷移した状態を
維持しますので、プッシュスイッチの状態に拘わらずQ3 のベース電位はH レベルのまま維持されますからQ3 は導通状態を維持しLED は点灯し続けます。プッシュスイッチをもう一度押すとマルチバイブレータの出力はL レベルに遷移しその状態を維持し続けます。そうするとQ3 はオフの状態になりますからQ3 のコレクタ電流が流れることは無くLED は消灯します。
つまり、プッシュスイッチを押すたびにLED は点灯、消灯の状態を繰り返すことになります。
Q3 のコレクタ負荷にリレーを接続した場合も同じです。一旦遷移した状態を維持しますから回路は自己保持していることになります。
但し、双安定マルチバイブレータで出力がH レベルで始まるかL レベルで始まるかはほんの僅かな構成部品のバラツキによって決まりますので必ずH で始まるようにするためには一工夫が必要です。


4 H ブリッジ回路
おもちゃの世界でモーターを制御する代表的な回路の一つとして「Hdブリッジ回路」と呼ばれる回路があります。モーターの左右にスイッチを配置して回転方向を制御する回路です。

Fig-7a では表示例のスイッチの位置がこの状態では電流はVCC→S1→M→S4→GND と流れます。スイッチが反対側に倒されると電流はVCC→S2→M→S3→GND と流れます。つまりスイッチの位置によってモーターに対する電流の流れる方向が逆になりモーターの回転方向が正転、逆転と切り替わることになります。Fig-7a は機械的スイッチによって回転方向を切り替えていますが、機械的スイッチをトランジスタによる電子スイッチに置き換えたものがFig-7b です。

 

ケース 1:IN1 がH、IN2 がL とすればQ1 がON、Q2 がOFF 状態になるためQ3、Q4、Q5、Q6 はそれぞれ
OFF、ON、ON、OFF になるため電流はVCC→Q4→M→Q5→VEE と流れます。
ケース2:逆にIN1 がL、IN2 がH とすればQ1 がOFF、Q2 がON 状態になるためQ3、Q4、Q5、Q6 はそ
れぞれON、OFF、OFF、ON になるため電流はVCC→Q3→M→Q6→VEE と流れることになります。


※ディジタル回路では電圧が回路的に意味のある状態を「H:High」、意味を持たない状態を「L:Low」と表すのが一般的です。ここでは正論理なのでH は電圧がかかっている状態、L は電圧がかかっていない状態と解釈してください。
この結果、ケース1の状態でモーターが正転するとすれば、ケース2の状態ではモーターは逆転することになります。またIN1 とIN2 がどちらもH 或いはL になったとすればブリッジ回路なのでM の両端は等しい値になりモーターに電流が流れることはありません。
この回路はFig-7a で示した単純なON/OFF だけではなく、Fig-7b の回路ではIN1、IN2 に与えるトリガ信号としてPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号を与えることによってモーターに流れる電流を直接制御することが出来、結果としてモーターの回転数をディジタルに制御することが可能になります。高級な制御になりますのでおもちゃの世界ではあまり見ませんが、ホビー用以上のラジコンでは動力用として主流になっています。
おもちゃの世界でも殆どの場合Fig-7b の変形版が採用されています。

 

5 マルチバイブレータ
マルチバイブレータは発振回路、タイマー、ラッチ、フリップフロップ(FF)など様々な単純な2状態系※を実装するのに使われる電子回路です。基本的にはスイッチング回路ではなく発振回路に属します。ただ、正弦波ではなく矩形波をその主体として取り扱いますので回路自体の動作はスイッチング動作と同じになります。
ディジタル回路ではAND、OR、NAND、NOR、INV、FF 等の極めて少ない基本的な回路を組み合わせてあの複雑な回路を構成しているのでFF を理解することは極めて重要なことになります。

※2状態系:ON かOFF かのいずれかの状態しかとりえない状態。ディジタル回路では「H」、「L」として取り扱います。
マルチバイブレータには3 種類の形態があります。


i)無安定マルチバイブレータ(Unstable Multi-vibrator)

無安定マルチバイブレータは二つの状態を常に行ったり来たりし安定な状態がない発振器です。回路を構成する抵抗(R)とコンデンサ(C)で決まる特定の周波数で発振します。出力は矩形波になります。回路全体を制御するクロックパルスとして使われることが多いです。
Fig-7 で出力が逆相になっていることに注意して下さい。これはQ1 とQ2 が交互にON 状態になっていることを表しています。


Ii)単安定マルチバイブレータ(Mono-stable Multi-vibrator)

単安定マルチバイブレータはマルチバイブレータと言う名前に誤魔化されてはいけません。
単安定マルチバイブレータは回路にトリガ電圧が与えられた瞬間に一発だけパルスを出力します。
回路を構成しているコンデンサと抵抗によって定められる時間の後は元の状態に戻ります。
つまり、基本的な状態からトリガを当てられることによって一時的に他の状態に移り、暫くすると基本状態に自動的にもどるという動作をするため、安定した状態は一つと言うことになるため単安定と称されます。

トリガ信号が入ると出力は同時にH になり、その後はR2 とC1 による時定数の分だけH 状態を維持した後、L 状態に戻り、次のトリガ信号が与えられるまでL 状態を維持します。
この回路は後に続くスイッチング回路に対しパルス状の制御信号を出し、スイッチング回路の制御を行う回路として使われます。


Iii)双安定マルチバイブレータ(Bi-stable Multi-vibrator)

2状態系のどちらの状態も安定しています。外部からのイベント信号やトリガ信号によって一方の状態から他の状態に切り替わります。レジスタや記憶装置の基本構成要素として、非常に重要な回路です。ラッチ・フリ
ップフロップとも呼びます。基本的にはトリガ信号の2 倍の周期で出力されますので分周比は1/2になります。この回路を上手く組み合わせると任意の分周比を取ることが出来るようになります。
また、この回路はトリガ信号を与えられない限り必ず一方の状態を維持しますので一種の自己保持回路として動作することになり、半導体メモリの基本的な回路として使用されています。
これらの回路は、現在では此処で示したようなディスクリートの部品を使って作成することは実験のため以外ではほとんどなくなり、汎用のIC を組み合わせて或いは専用のIC を使って組み込まれることが一般的です。
回路の動作を理解するためにディスクリートで回路を構成し実験してみるのは大変面白いので是非やって見て下さい。