6.半導体

(1)半導体とは

半導体とは金属などの導体とゴム、セラミックなどの絶縁体の中間の特性を持つ物質です。

半導体を理解するためにはどうしても原子レベルでの電子の動きを理解する必要があるため小難しい話ですが簡単に触れることにします。この項は読みたい方だけ読んでください。

上図で亜酸化銅・セレン~黄鉄鉱ぐらいまでの物質が半導体と呼ばれる物質になります。しかし単純に電気が通り易いか通り難いかだけで判断すると「半導体」ではなく抵抗と同じ特性しか持ち合わせないことになります。

ア.原子の話

物質は固体では必ず結晶構造を持っています。原子の状態では中央に陽子と中性子があり、その外側に電子の回る軌道があります。陽子と電子の数は必ず同じ数になっていてこのため、物質の電気的特性は中性になっています。軌道は電子の数によって異なりますが、一つの軌道に入ることのできる電子の数は決まっていますので複数層になるのが普通です。電気が通り易いか通り難いかに関係する電子は一番外側の軌道を回っています。電子だけです。この電子を価電子と言います。

内側の電子は極めて強く核にある陽子と結びついていますので核分裂以外では軌道の外に飛び出すことはありません。

 

左図は半導体として有名なシリコン(ケイ素)の原子及びその結晶構造を示したものです。最外殻の電子の数は4個です。このような構造の原子を4価の原子と呼びます。ゲルマニウムも4価の原子です。結晶図の隣の原子と結びついています。腕が4本なのは価電子の数が4個だからです。価電子は一番外側にあるために陽子との結びつきが比較的弱く外部からのエネルギー(熱、光)供給によって比較的容易に原子構造の外に飛び出します。

 

この性質を強く持つ物質が導体で、殆ど持たないものが絶縁物と言うことになります。

イ.エネルギーギャップ

左図は金属(導体)、半導体及び絶縁体のエネルギー準位を模式化したものです。各物質を構成する原子の一番外側にある電子の動き易さを示していて電子が通常存在する場所を価電子帯、電子が自由に動き回れる場所を伝導体とした場合、その間には禁制帯(エネルギーギャップ)と呼ばれる場所が存在します。禁制帯には電子は存在することが出来ないので電子は必ず価電子帯か伝導帯のいずれかの場所に存在することになります。この禁制帯の幅が電気の通り易さを左右します。

価電子帯にある電子が伝導体に移動するには外部からの何らかのストレス(エネルギーの供給)が必要です。一般的には「熱」或いは「光」と言うことになります。

金属には禁制帯が殆んど無く、常温で電子が容易に価電子帯と伝導帯を行き来できますので電荷が移動できる(抵抗が低い)ことが理解できることと思います。

逆に絶縁体は価電子帯と伝導帯の間が大きく離れていますので電子が禁制帯を飛び越して伝導帯に移るには大きなエネルギーを与えてやる必要があり、電子の移動は極めて困難、すなわち電気が通り難い、通らないと言うことになります。

半導体は禁制帯の幅が狭いので外部からのストレス(エネルギー供給)が上手く働けば価電子帯の電子は伝導帯に飛び移ることができます。一種類の原子だけで出来ていて不純物や結晶の格子欠陥を全く含まない半導体を真正半導体と言いますが、真正半導体では原子同士の結合がしっかりしています。ため利用しにくい状態になります。そこで真正半導体に不純物を加えることによって電子が余っています。状態や、不足しています。状態を人為的に作りやすいことも半導体としては重要な要件の一つです。

半導体のうちポピュラーなのはシリコン(14Si28)とゲルマニウム(32Ge72)です。この二つの元素はともに4価の金属で先に述べたエネルギーギャップの小ささ(0.7eV)から先にゲルマニウムが利用されるようになり、現在ではシリコン(1.12eV)が主流となっています。

※ シリコン(ケイ素)はもともとは石英(水晶)の中核となる非金属ですが圧力を加えると構造相転し金属ケイ素になります。この金属ケイ素の純度を高めて(テンナイン:99.99999999%)半導体の材料として用いられます。

ウ.PN)型半導体

ゲルマニウム或いはシリコンの完全に純粋な結晶体では各原子の結合子が隣の原子と完全に結びついていますので外部から刺激を与えても飛び出すことのできる電子の数はたかが知れていてこれを利用して何かをさせようとしてもあまり利用価値はありません。

そこで、結晶の中にホウ素(B)、インジウム(In)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)などの3価或いは5価の不純物を添加して強制的に余剰電子や電子不足の状態を作り出します。

周囲のGeまたはSiの原子と結晶を作るためには結合子が4本必要ですので5価の不純物の場合は結合子(電子)が1個余り、3価の不純物の場合は結合子が1個不足する状態になります。

余った電子は結びつく相手がいないので外部からの刺激に対して容易に軌道から離れ電荷を運ぶ担い手の自由電子となります。これをN型半導体と言います。

一個不足する場合は、この相手方の原子は不安定になりますので隣の原子から電子を奪って自らの安定を図ろうとします。結局、電子が不足した部分は結晶構造の中で穴が開いた状態になりますので電気的にはプラスになります。この状態をプラス電荷を持つ穴と言う意味で「正孔」と呼びますが電子の略奪は次々におこりますのであたかも穴が移動する、正孔が移動することになります。この種の半導体をP型半導体と呼びます。

正孔或いは自由電子は電荷の運び役になりますので「キャリア」とも言います。

エ.PN接合とオーミック接合

2種類の金属を接合(接着)する場合、ともに金属で伝導体の電子が沢山ある場合は金属の種類で電気が流れ易い或いは流れ難いということがあるにせよ先に述べたエネルギーギャップをどう乗り越えるかと言う問題は生じません。

しかし、一方がN型半導体でもう一方がP型半導体の場合はエネルギーギャップをどう乗り越えるかが大きな問題になります。自由電子が多いほうの側にプラス極、反対側にマイナス極を接続した場合は極との接続部分で電荷が中和され接合部分を乗り越えて電荷が移動することが出来なくなります。反対に自由電子が多いほうにマイナス極、反対側にプラス極を接続すると極との接合部分においては同じ電荷なので反発し、反対側に接続された極の電荷を求めて接合部分を乗り越えて電荷が移動します。このことは電荷は一方通行で逆には流れないと言うことになります。

これをPN接合と言います。

金属と半導体の接合部分でも同じことが言えます。このような状態では半導体そのものの働きを阻害することになるため特殊な方法でエネルギーギャップを打ち消し、単純に抵抗値だけの問題として捉えられるような接合のやり方があります。このやり方をオーミック接合と言います。