変調と検波


電子回路の一つとして検波回路は避けて通ることが出来ない重要な役割を持った回路ですが、おもちゃの世界で考えるならば遠隔操作(リモコン)を使用していないおもちゃでは使用されていなことも多く、電子回路を
学ぶという観点から用語を理解すると言う観点で見て頂ければよいのかなと思います。
そのためできるだけ項目の説明は簡単に留めたいと思います。
整流回路と検波回路は図面の上では同じように見えます。
原理的に、交流成分から直流或いは信号成分を取り出すのがこの回路の目的ですので、似通った回路構成になるのはやむを得ないのです。

 

では、どこが違うのでしょうか?
まず整流回路は交流から直流の電力を取り出すことが目的で、そのため、交流成分は極力排除するように考えられています。また、電力を取り出すため、使用する部品も大きな電力を扱えるものを使っています。基本的
には商用周波数(50Hz または60Hz 稀に航空機用として400Hz)がその対象となります。
検波回路は、入力される高周波の信号波の中から、伝送したい信号を取り出すことが目的で、伝送したい信号以外の成分は排除するように考えられています。また電力を取り出すことを目的としているわけではないので
大電力を取り扱う部品を使用することは稀です。取り扱う周波数帯としては商用周波数(50Hz 或いは60Hz)
に近いところから数THz と言った超高周波までを含みます。また高周波(搬送波)に信号波を加えることを変調と言いますが、変調された高周波から変調のもとになった信号成分を取り出すことを、現在では一般的に
は復調と言います。その中で検波はラジオ放送のようなAM 変調された高周波から音声信号を取り出すことを指します。
どの様な変調を受けているかで使用される復調回路が異なります。
例えば、普通のラジオ放送(AM 波)を対象とする場合はダイオード検波が、FM 放送(FM 波)を対象とする場合はレシオ検波、ベクトル合成検波、フォスターシーレー検波、SSB 波を対象とする場合はプロダクト検波
などが代表的なものとして挙げられます。ディジタル信号の場合もディジタル復調回路が用いられます。

 

1.基本的な変調方式

用語について
前述のような歴史により、無線で使われた(現代ではラジオの方式として広く知られている)AMやFMといった変調という語がまず広く使われました。後からできた「PCM」という語など、現代においてディジタルオーディオ等を指して使われているのは少々不自然ですが、元々「変調」という語が使われていた延長としてできている語です。
一方たとえば、ディジタル変調の「不連続周波数変調」ないし「周波数不連続変調」とでも呼ぶべき方式が、「FSK」(K = keying)と呼ばれているのは、無線技術において原始的なディジタル方式であった、電信の操作(「電鍵」を操作することから、keying と言う)に由来しています。


分類について
以下では「アナログ変調」「ディジタル変調」「パルス変調」に分類していますが、「アナログ変調」と「ディジタル変調」という分類は、通信される情報に着目した分類です。それに対し「パルス変調」は、搬送波が矩形波である方式の総称であって、「アナログ変調のパルス変調」もあれば「ディジタル変調のパルス変調」もあります。

 

1.1 アナログ変調

上図は情報信号がAM信号またはFM信号として搬送されている例です。
アナログな(連続的な、比例量的な)情報の通信のための、振幅や周波数や位相どを連続的に変化させる変調方式です。


① 振幅変調(AM:Amplitude Modulation)
振幅変調は電波や光、これらを搬送波と言いますが、の大きさや強さを変化させて信号を相手に届けようとするものです。搬送波の周波数は変化しません。普通のラジオ放送、アナログ時代のテレビの 映像信号 がこれにあたります。搬送波を凸凹にして意味をもたせるので同じように凸凹の特性を持つ雑音は分離することが出来ません。そのためAMは雑音には弱いです。
② 周波数変調、位相変調(FM:Frequency Modulation、PM:Phase Modulation)
周波数変調は搬送波の周波数を信号波の内容に合わせてズラして(偏移)信号を相手に届けようとするものです。送ろうとする信号波に合わせて搬送波の周波数そのものを偏移させるものが周波数変調で、搬送波の位相を変化させるものが位相変調です。この両者は変調の原理は違いますが、変調の結果得られる変調波は殆ど同じように見え、同じ復調器で復調できます。FM放送やアナログ時代のテレビの 音声信号 がこれにあたります。
信号の大きさが信号に影響しないので雑音に強いのですが、変調波のレベルがある一定以下になると急激に復調できなくなると言う特徴があります。

 

1.2 ディジタル変調
ディジタルな(離散的な、不連続な)情報の通信のための、振幅や周波数や位相などを不連的に変化させる変調方式です。


伝送したい情報を持つ信号波がディジタル信号の場合で、上図で00110100010と表されているのが信号波になります。ディジタル信号ですからH(High)かL(Low)かが問題で、大きさ(高さ)は問題ではありません。幅はタイミング信号に同期していますので幅の大小も信号としては意味を持ちません。


• 振幅偏移変調(ASK: amplitude shift Keying):信号の「有る」、「無し」を低周波で振幅変調された変調波で表します。低周波成分があればH、無ければLと判定します。低周波(AF:Audio Frequency)で振幅変調しますのでAFSKとも言います。
• 周波数偏移変調(FSK: frequency shift keying)信号波は二つの周波数(f1とf2)で構成され、f1とf2を行き来して被変調波(搬送波)を変調し信号を送ります。ラジオテレタイプなどで主用されました。
• 位相偏移変調(PSK: phase shift keying) : 一定周波数の搬送波の位相を変化させることで変調するもの。変調1回あたりの送信ビット数を増やすごとに、BPSK、QPSKなどと呼ばれます。
• 直角位相振幅変調(QAM: quadrature amplitude modulation):90度位相をずらした2組の位相偏移変調を用いて信号を伝送する方式です。信号の伝送密度を高く取れるため衛星通信では主流となっています。


1.3 パルス変調
搬送波が矩形波である方式の総称です。
アナログな情報を、いわゆるAD変換によって標本化・量子化し、ディジタルで通信する、という方式を指すものがパルス符号変調(PCM)です。他は、パルスの振幅・幅・位相などを変調する方式で、変化量が連続的な場合(アナログ)と離散的(ディジタル)な場合の、両方があります。


• パルス振幅変調(PAM: pulse-amplitude modulation)
これは、元の信号(変調信号)をある周波数の周期でサンプリングして、その周期で振幅をパルス化する方法です。イーサネット通信でPAM5として利用している例があります。

      
• パルス符号変調(PCM: pulse-code modulation)数個のパルス列を一組としてコード化し、コードによって信号を伝送する変調方式です。例えば8個のパルスを一組とすれば256種類のコードが作れるのでコンピュータのように初めからディジタルで表現されている場合には、英文であれば問題なく表現できます。

音声信号のようなアナログ値を扱う場合には、パルス振幅変調の様に振幅を変換しますが、信号のレベルをパルス列のコードに変換します。
上の図は、振幅を16レベルに分類し4ビット(4つの1、又は0で現わす)のコードに変換します。実際のレベルは、それぞれの時間に対して図の右側に示す「4ビット表示」の値に変換されて表示されます。使用例として、音楽CD等の書き込みがあります。
上図では時間軸に合わせて0111、1001、1011、1100、1101、1101、1111、……のように信号が送り出されていきます
• パルス幅変調(PWM: pulse-width modulation)1個のパルスの長さを変化させることによってパルスに意味を持たせる変調方式です。通信以外でも電力伝送、モーター制御などにも使われます。おもちゃの世界ではモーターの制御によく使われています。


• パルス位置変調(PPM: pulse-position modulation)
下図の様に、信号を周期に対する時間的なパルスの位置に変換します。位相制御装置の制御パルスとしての利用例があります。
利用する変調方式は、用途に応じて変わりますが、組み合わせも含めてもっと多くの方式が考えられています。


• パルス密度変調(PDM: pulse-density modulation)
0、1でアナログ信号を表現するのに使われる変調方式。パルス密度変調信号においては、パルスの相対密度はアナログ信号の振幅に対応している。
これがPDM (Pulse Density Modulation) のパルス波形と、それから作られるオーディオ波形のイメージです。パルスの形は全部同じで、幅は1です。図の横軸に入っている目盛りはマスタークロック周期で、パルスの幅はその1目盛り分。オーディオ波形はこのパルスの出現率(密度=Density)で決まります。

 

2 復調(検波)
① AM変調の場合は振幅変調ですので、包絡線検波という復調を行います。
電気信号の時系列における包絡線に目的の情報がある場合に包絡線のみを取り出す復調方式です。この簡単な実現方法のひとつが、包絡線検波です。


AM変調を受けた信号波をオシロ等で観測すると上図のような波形を観測することが出来ます。
図で赤い線で表示されている部分が取り出したい信号波であり、これを包絡線と言います。
最も簡単な回路は、入力信号を1本のダイオードに通し、その出力を抵抗器とコンデンサの並列回路で受けるものです。抵抗器とコンデンサの時定数を適切に設計すると、搬送波の高周波成分を取り除くことができるので、その出力波形は入力波形の包絡線に近い波形となります。
復調(検波)の主役がダイオード(古い言い方では2極管)なのでダイオード検波(2極管検波)とも言います。


② FM変調の場合は周波数変調ですので、周波数弁別器(ディスクリミネーター)と言う回路を用いて入力信号が基準周波数からの偏移量(どれだけズレているかという周波数の差分)を取り出します。
PM(位相)変調の場合は基準周波数との位相角のズレを同じように取り出します。ただFM変調波とPM変調波は実際に電波として飛んでいる場合は見かけ上大きな違いはないので、同一の周波数弁別器を用いて復調することが出来ます。実際の検波回路としてはフォスターシーレー検波、レシオ検波、ベクトル合成検波回路などが用いられます。また、基準周波数からのズレを問題にしますので正確さを求める場合は水晶やセラミックなど機械的な振動を利用する水晶ディスクリ、セラミック・ディスクリ等も用いられています。


③ パルス変調の場合は特に定まった復調回路と言うものはなく各変調信号に対応した復調器を用います。
例えばPAM信号とPWM信号を復調するには低域フィルターでよく、PPM信号はPWM信号とかPAM信号に変換して復調します。PPM信号をPWM信号に変換するには、クロック周波数でフリップフロップをセットしPPM信号でリセットする回路を用い、PAM信号にはのこぎり波をPPM信号でスライスする回路が用いられます。
PCM信号を復調するには、PCM信号の各ビットに対応したアナログ信号を発生させ、それらを加算する回路が用いられています。
これらの各パルス変調波は単に復調しただけでは意味を持った信号波にならないため、通常はデコーダー(解析器)を通して意味を持つ信号波に解析してやる必要があります。


2.1 その他の検波
① 再生検波
検波と言う言葉が付けられているため復調(検波)方式の種類のように見えますが、実は検波回路ではなく検波回路してはダイオード検波に属するものです。簡単なラジオ受信機で受信した電波をそのまま検波する場合、受けた信号は極めて小さいため、検波をする能動素子を発振する一歩手前の状態にすると感度が大きく上昇することを利用した回路です。昔の真空管を使ったラジオ(受信機)では真空管が高価だったためその数をむやみに増やすことが出来なかったのと放送波帯のような高い周波数を安定に増幅することが難しかったためこの方式を用いたラジオが一般的でした。このようなラジオは周波数変換を行うスーパーヘテロダイン受信機に対してストレート受信機と呼ばれました。


② 超再生検波
超再生検波方式は再生検波方式が発振の一歩手前の状態にして感度や選択度の向上を図ったのに対して、受信周波数よりはずっと低い周波数で間欠的に発振させ、これを利用することで感度や選択度の向上を図った受信方式です。この低い周波数での発振をクエンチング発振と言い、超再生受信機では目的信号波を受信していないときは、この発振によるノイズを、クエンチングノイズと言いますが音声信号として聞くことが出来ます。
一方で常時クエンチング発振をさせなければならないのと弱いながらも周囲に雑音をまき散らしていますので短波帯の上の方、目的周波数が大体25MHz以上でなければ実用になりません。
また、再生検波方式はAM変調にしか対応できませんが超再生検波方式は十分では無いもののFM変調にも対応することが出来ると言う特徴があります。
トイラジコンは殆どが超再生回路を用いた受信機を採用しています。


③ その他
他にも、同期検波方式、プロダクト検波方式、2乗検波方式、クアドラチャ検波方式、ゲーテッドビーム検波方式等の検波方式がありますがここでは割愛します。
おもちゃの世界でもAM変調、FM(PM)変調、各種のパルス変調が主としてラジコン、リモコンに用いられています。
修理に当たっては「ほほう、こいつは超再生方式か」などと呟いてみては如何でしょうか。