発振回路

 

1概要

発振回路とは電気的な繰り返し振動を発生する電子回路です。

 

電波の放射や、ディジタル回路におけるクロックパルス(コンピュータまたはディジタル回路が動作する時に、タイミングを取る(同期を取る)ための周期的な信号)の発生が代表的な用途ですが、それ以外にも、電子回路の動作の基準を作り出す重要な回路です。

 

発振回路はその原理により、大きく帰還型(きかんがた)と弛張型(しちょうがた)に分類できます。

 

他の分類としては、発振をおこす方式によってLC発振回路、CR発振回路、水晶発振回路、使用するデバイスによってトランジスタ発振回路、電子管発振回路、マグネトロン・クライストロン発振回路等があります。

また発生する周波数に応じて低周波、高周波、マイクロ波発振回路とも呼び、発生する波形に応じて正弦波、方形波、三角波、パルス発振回路などとも分類されます。

 発振回路においては、発振周波数の安定性、発振強度の安定性、波形の綺麗さなどが重要な要素になります。

 

2.発振周波数

 発振周波数は回路の構成素子により異なります。

 

コンデンサー(C)と抵抗(R)を用いるCR発振器は1000分の1~数メガヘルツの発振周波数が、インダクタンス(L)とコンデンサを用いるLC発振器では1~数百メガヘルツ、磁電管によるものは100メガ~100ギガヘルツ、クライストロンによるものは数百メガ~数十ギガヘルツの発振が得られます。

水晶発振器は安定性が良く数百ヘルツ~数百メガヘルツの発振が得られます。似た原理の磁歪(じわい)発振器では数百ヘルツ~数十キロヘルツです。

発振回路に使われる能動デバイスにより、負性抵抗素子を用いる内部帰還型と、トランジスタや電子管を用いた外部帰還型発振回路に分けられます。内部帰還型ではとくに正帰還の回路を用いず、外部回路で失われるエネルギーを負性抵抗で供給することになり、負性抵抗と外部回路の抵抗が一致した状態で発振が持続します。外部帰還型は、能動デバイスは増幅器として働き、その出力の一部を入力側に正帰還させ、外部回路で失われるエネルギーを増幅器で補うものですが、増幅率と帰還率の積が1のときに発振し、増幅器が非線形のために発振電圧はある値に落ち着きます。

 負性抵抗素子としてはエサキダイオードが有名です。

 

 3.発振回路

 3-1 帰還型と弛張型

 発振回路には大きく分けて帰還型と弛張型があります。

 

帰還型Harmonic oscillator)は、増幅回路の出力の一部を入力に帰還(フィードバック)させることにより、規則的な電圧の変動を生じさせるもので、基本的には増幅回路の特殊例と言えるものです。

帰還型の例として、マイクにより得られた音声信号をアンプで増幅し、スピーカーから出力する際に起こるハウリングが挙げられます。

 スピーカーからの出力が十分に大きい場合、マイクをスピーカーに近づけると振幅の大きな規則的な電気信号が得られます。これはスピーカーからの出力の一部がマイクに帰還されたことにより生ずる現象です。この例から分かる通り、増幅を目的とした回路でも、(意図しない)帰還があると発振することがあります。

フィードバック回路が発振するためには帰還される信号の位相が入力と同じ位相であり、かつ帰還される信号が入力した信号よりも大きい(帰還ゲインが1以上)という条件を満たす必要があります。

 

 弛張型Relaxation oscillator)は、電気的にはスイッチのオン・オフのタイミングを制御することで断続した電気信号を生じさせるもので、増幅回路を持たないこともあります。

 

3-2 帰還型発振回路

 増幅回路の出力の一部を入力に帰還する際、その時間遅れを決めることにより、発振周波数が決定されます。正帰還(入力の電気信号と、帰還する電気信号の位相が同じ)の場合に発振します。用いる受動素子により、いくつかの種類に分類できます。

 

3-2-1 LC発振回路(高周波)

 L(コイル)とC(コンデンサ)で構成されるLC回路を用いて帰還するものです。帰還の方式によりハートレー型、コルピッツ型、コレクタ同調型、ベース同調型、エミッタ同調型などがあり、それぞれの特徴を生かして使用されています。

主として電波に関わる領域(高周波)の発振に用いられ、基本的に正弦波を発振します。

 

·        ハートレー発振回路Hartley oscillator: コイル2個、コンデンサ1個で構成します。2個のコイルを結合させ出力を帰還します。

 

 

·        コルピッツ発振回路Colpitts oscillator: コイル1個、コンデンサ2個で構成します。

 発振電力をコンデンサで分割して帰還量を制御します。ハートレー回路よりは機械的に安定しているため安定度を要求される場合にはこちらの方が向いていると言えます。

 

 

·        クラップ発振回路(Clapp oscillator:コルピッツ発振回路は基本的にコイル1個、コンデンサ2個で構成しますが、実際にはコイルと直列に小容量のコンデンサを挿入してコイルの結合を疎にして電気的安定度を向上することが多く、この変形をクラップ発振回路(Clapp oscillator)と呼びます。

 

クラップ発振回路はC/Nに優れており、無線機に要求される非常に厳しいC/Nを満たすことが出来るため、バイポーラトランジスタを使ってディスクリートで構成される無線機用VCOの原型の回路になっています。

 

 

 C/NCareer Noise比、目的とする周波数成分と雑音の比、C/N比が高いほど良好な発振回路と言えます。

 

·         同調形発振回路

 回路の一部に同調回路を設け、その電圧の一部を帰還するものです。同調回路を用いますので高周波領域において使用されます。

 

 ·        コレクタ同調(コレクタ回路に並列同調回路をいれます。)

 ·        ベース同調(ベース回路に並列同調回路をいれます。)

 ·        エミッタ同調(エミッタ回路に並列同調回路を入れます。)

 

3-2-2 CR発振回路(低周波)

C(コンデンサ)とR(抵抗)で構成されるRC回路を用いて帰還するものです。

CR発振回路は増幅器の出力の位相を180度回転して入力に戻すもので、CR移相器を使う移相発振器、ブリッジを用いるウィーンブリッジ発振器、能動デバイスを2個使用するスイッチング用のマルチバイブレータがあります。

主として低周波(音声信号領域)の発振に用いられ、基本的に正弦波を発生します。

 

·        移相形: コンデンサと抵抗によるローパスフィルタまたはハイパスフィルタは、周波数に応じて0度から90度の位相のずれが生じます。その回路を3段もしくは4段接続すると、特定の周波数で180度の位相のずれが生ずるので、反転増幅器の帰還回路に用いることで発振します。

 ·        ウィーンブリッジ形(Wien bridge oscillator: コンデンサと抵抗によるバンドパスフィルタを用いて増幅回路に正帰還をかけます。出力電圧の振幅が飽和しないよう、その振幅を整流回路、平滑回路、遅延回路などで検出して、負帰還を調整します(増幅率を増減する)。精度が比較的高く、周波数の可変域が広いため、アナログ式の発振器に用いられています。

·        ツインT: コンデンサと抵抗をT字型に接続することで、ハイパスフィルタとローパスフィルタを構成できます。これらを並列にして位相反転形のバンドバスフィルタを構成し、増幅回路の負帰還として用いることで、正弦波を発生できます。調整はやや難しいのですが、トランジスタ1石で低周波の正弦波を発生できる数少ない回路のため、簡便な発振回路として用いられます。

     

 

·        マルチバイブレータ

 マルチバイブレータ(Multi vibrator)と呼ばれる回路には、次の3種類があります。

 

 ·        単安定マルチバイブレータ

 ·        双安定マルチバイブレータ

 ·        非安定マルチバイブレータ

 このうち非安定マルチバイブレータが発振回路として用いられます。2組の反転増幅回路の入力と出力をそれぞれ互い違いに接続した回路です。

 

3-2-3 固体振動子発振回路

水晶振動子・セラミック発振子など、電圧を印加することで固有振動を起こす部品(固体振動子)を回路内に接続することにより、固有の発振周波数で発振させることができます。特に水晶振動子を用いた回路は、発振周波数の精度が非常に高いことが知られています。

 

回路内の接続の方法により、次のように分類されます。

 ·        ピアースB-E回路

 ·        ピアースC-B回路

 ·        無調整型発振回路

  水晶発振回路は、LC回路の共振の周波数の選択性の悪さを補うためのものです。水晶の切り出し型によって共振周波数の選択性と温度安定性のよいものが得られており、ピアースBE型、ピアースCB型、無調整型などがあり、安定性のよさから周波数の二次標準としても使われています。

一般的な水晶発振回路においては厚み滑り振動のATカットと呼ばれる切り出し方が用いられていますが、時計などに使われている音叉型水晶は屈曲振動のXカットのものが使われます。この音叉型水晶振動子はATカットの振動子に比べ活性が低いのと許容電力が小さく無理が効かないので取り扱いには注意が必要です。

 

3-3 弛張型発振回路の例

 弛張(しちょう)型発振回路は電流のオン・オフに対して、ある条件を与えることで、断続する電気信号を作り出す回路です。「弛」はゆるむ、「張」ははることで、それを交互に繰り返し発振する意味です。

我孫子おもちゃの病院のおもちゃテスターATH-001号機はスピーカー機能チェック用として弛張型発振回路を採用しています。回路自体は簡単なのですが波形が綺麗でない(C/N比が悪い)という欠点があります。(副振動や高調波が多く音が濁ってしまう。)

                

  4 その他の発振回路

 4-1 マグネトロン・クライストロン発振回路

 

超高周波領域(GHz領域)で用いられるマグネトロン、クライストロン発振回路は、電子流と電波の相互作用を増幅に用い、共振回路には空胴共振器を用いています。

 

 

4-2 ネオン管発振回路

ネオン管(放電管)は、放電が起きていない状態では抵抗値が高いが、一旦放電が起こると抵抗が低い状態になる性質があります。ネオン管に並列にキャパシタを接続し、高抵抗を通して高い直流電圧を加えると、キャパシタに電荷が蓄えられるため、次第にネオン管の端子電圧が高くなります。ネオン管が放電を起こす閾値を超えると放電が起こって、キャパシタの電圧が放電終了電圧より低くなるまで放電します。

そして放電し終わると、またキャパシタに電荷が蓄えられる、という動作を繰り返します。この時ネオン管の端子電圧は周期的に変化しているので、これを発振出力として取り出すことができます。

 ネオン管の代わりに、同等の作用を持つサイラトロンなどのガス放電管やUJTPUTなどの半導体素子を用いるものもあります。このための専用のICもあります。

   ※1 UJTUnijunction Transistor N型半導体に、P型半導体が結 

      合したものです。UJT2SHの型番を持ちます。例えば、東芝の

      2SH21等が代表的なものですが、既に全品種が廃番となっています。

2 PUTプログラマブルUJTPUT)は、サイリスタに似た素子です。サイリスタのように、4つのPN層からなり、アノードとカソードが最初と最後の層に結合していて、ゲートがどちらか一方の層につながっています。元来のUJTとまったく同じというわけではありませんが、同じような機能を果たします。

 

4-3 リレーによる発振回路

 

NC接点とコイルを直列に繋いだ回路

 


 電圧を印加すると、コイルが励磁して接点が吸引され、電源から切り離されます。そうするとコイルの発生する磁力が弱まり、吸引力が少なくなるため接点は再び電源に繋がれ、最初の状態に戻ります。

この回路は、発振が直接運動エネルギーとして取り出せる事と、構造が非常に単純な事から、非常ベルやブザーなどに用いられます。

 一見、簡単なように見える回路のため、昔はブザー回路として小学校の理科の教科書にも取り上げられていましたが、正しい動作説明をしようとすると極めて難しいことが分かったため、近年は削除されています。感覚的な説明ならば問題はありません。

 

4-4 専用集積回路(IC)

 

                           タイマー用IC NE555を用いると簡単に弛張型発振回路を構成できます。接続されているコンデンサの電荷をうまく放電するように回路を構成すると、順次抵抗を経てコンデンサに充電し、一定の電荷に達するとコンデンサの電荷の放電を開始します。放電終了後はまたコンデンサの充電が始まりますので発振をさせることができます。このICを使うことのメリットは、1Hz以下の長周期発振が実現できることです。

 

おもちゃの世界においては、これらの発振回路がその目的に応じて機器の内部に組み込まれています。

MPUが組み込まれている場合には水晶発振回路やRC発振回路、ラジコンなどには水晶発振回路、LC発振回路、周波数の安定度が問題にならない場合はRC発振回路などです。各発振回路の特性や特徴を押さえて修復にあたってください。