トランジスタとはどんな部品?

トランジスタの端子

トランジスタの動作について簡単に説明します.

 

 まずはトランジスタの外見と,端子の名前です.トランジスタには色々な形があるのですが,小さなカマボコのようなタイプを出しておきます.代表的な形の1つです.トランジスタは3本足の部品で,それぞれの足にエミッタ(Emitter)・コレクタ(Collector)・ベース(Base)という名前が付いてます(左から順に「エクボ」と覚えるんだ・・・というのはよく聞く話で,大抵はこの順になってます。違う場合もありますが・・・).

ここで例に出しているのは「バイポーラ・トランジスタ」というトランジスタです.トランジスタという部品には動作原理で大きく2種類に分けられ,「バイポーラ・トランジスタ」と「電界効果トランジスタ(FET)」とがあります.単に“トランジスタ”と言えばバイポーラ・トランジスタを指すことが多いです.

バイポーラ・トランジスタの回路図は左のような感じになってます.

トランジスタには「極性」みたいなものがあります.プラスとマイナスの向きで分類すると,

NPN型トランジスタ」とPNP型トランジスタ」に分けられます.これはトランジスタの“中身”から名づけられているのですが,その話は後々に これ以降は主に「NPNトランジスタ」(= NPN型のバイポーラ・トランジスタ)を使って解説を進めます. NPNトランジスタの方が直感的に分かりやすいので.

トランジスタの動作

では,「トランジスタというのはどんな動作をする部品なのか?」という話です.小難しい話はしません。ここではトランジスタの機能がおおよそイメージできる程度の話にとどめます.

まずはプッシュスイッチをイメージしてください.おなじみの部品だと思います. プッシュスイッチには2つの端子があります. 指でスイッチを押すと,その2端子間に電流が流れます.

 

 トランジスタもだいたい同じような動きをします. スイッチに付いている2端子は,トランジスタで言うと「コレクタ」と「エミッタ」に相当します. スイッチでは電流のONOFFをコントロールするのが「指」ですが, トランジスタでは「コレクタ-エミッタ間の電流を電気でコントロールする」ことができます. このコントロール用の端子が「ベース」ということになっています.

 

「コレクタ - エミッタ間の電流をベースに流す電流でコントロール(制御)できる」というのがトランジスタの機能の説明になっています。ただし,スイッチと比べるとトランジスタの方がちょっとスゴイです.スイッチは単純に電流のONOFFしかできませんが,トランジスタはもうちょっと色々できます.

さて,次に思い浮かべるのは「可変抵抗」(いわゆるボリューム)です. ツマミを回すと抵抗値を変えられるというアレです.

 さきほどのスイッチはONOFFしかできません. これを言いかえると,スイッチの抵抗値は「ゼロ」(導通状態)と「無限大」(絶縁状態)の2種類しか無いということになります. これに対して可変抵抗は「抵抗値をなめらかに変化させる」ことができる部品だと言えます.

 

ここでも,やはり可変抵抗の回路図とトランジスタの回路図を並べて書いてみます. ここまでの文脈でお気づきかもしれませんが,トランジスタは「スイッチ」というより「可変抵抗」に近いものです. すなわち,トランジスタは単なる「ONOFF」ではなく,ベース電流の大小に合わせて「なめらかに」 電流を変化させることができるものなのです.

 

 ざっくりと言ってしまえば,トランジスタはベース電流で抵抗値を変化させる可変抵抗です.

 トランジスタ(transistor)といういう名前の由来は“Trans-resistor”だとか, transfer of a signal through a varistor”とか言われてます。 Trans-resistorの“resistor”は「抵抗」という意味ですし, transfer of a signal through a varistorの“varistor”ってのは「バリスタ」,一種の可変抵抗みたいなものです. いずれにしても,「可変抵抗」的なニュアンスを含んでいます.

 しかし,ここまでの話だけでは別に「トランジスタってスゲー!」という気分にならないと思います (実際にトランジスタを使った工作をした時にスゴいな!と思ったので, 実際にモノを作ってみないとその感動は伝わらないかもしれません・・・). とりあえず,トランジスタのどこら辺がスゴいのか,その辺の話を掘り下げます.

(1)スイッチング作用

トランジスタの動作を説明するためにプッシュスイッチや可変抵抗と比べたりしました.プッシュスイッチのONOFFは人間の手で行いますが,トランジスタの場合は「ベース端子に流す電流」でコントロールすることができます.トランジスタのこの機能を「スイッチング作用」と呼ぶらしいです.

これを「入力」・「出力」という言葉を使って考えてみると,スイッチの場合は人間の手が「入力」になります.そして,スイッチを流れる電流のONOFFが「出力」です.これに対してトランジスタの場合は「入力」がベースの電流,「出力」がコレクタ-エミッタ間の電流ということで,入力と出力の両方が電気的なものになっていることになります.(電流を流す2端子に加えて,それをコントロールする3本目の端子を持っている部品(デバイス)のことを,「三端子デバイス」と呼んだりします.トランジスタは三端子デバイスの1つです.)


これはヤバイことです. トランジスタのような三端子デバイスが生まれるまでは,「入力」に相当するものは全て人間の手でした. どんなことをやるにしても「人間が自分の手で行う」ことしかできません. 例えば,いくつかの仕事を電気回路にやらせるとします. 1つ1つの仕事をさせるたびに,その都度スイッチを操作する必要があります.

 見ての通り,全部「手動」という感じです.操作するのも人間,結果を見て次の操作をするのも人間・・・という感じで作業は進んでいきます.

これに対して,「入力」と「出力」の両方を電気的に行える場合は1段目の回路の出力を2段目の回路の入力へ,2段目の出力を3段目の入力へ・・・

といった感じで次々と仕事(処理)を電気回路の中で行えるようになります. すなわち,三端子デバイスがあると「自動化」ができるようになるわけです.

 色々な仕事を「自動化」しているものの代表として「コンピュータ」なんかが思い浮かびます.コンピュータは正に,様々な仕事をどんどん自動的に行ってくれるわけですが,これは「電気的な入力」が無ければ不可能なことです.このコンピュータに動き回るための手足を付けてやれば自律ロボットができます.そんなわけで,トランジスタのような三端子デバイスがあると無いとでは大違いです.コンピュータの心臓部であるCPUの中には,小さなトランジスタが1億個以上入っています. CPUは正にトランジスタの塊といった感じです.

 

(1)増幅作用


トランジスタに流す電流はベース電流によって「なめらかに」変化させることができるんだ,という話が出ていました.

可変抵抗のツマミに相当するものがベース電流ということになります.

  確かにその通りなのですが,重要なのは「コントロール電流の量」です. 「本電流(コレクタ-エミッタ間に流れる電流)」は大きいのに対して, 「コントロール用の電流(ベース電流)」は非常に小さく,その差は何ケタもあります. 一般的に,コントロールされる側の電流(コレクタ電流)は,コントロールする電流(ベース電流)の1001000倍, さらにそれ以上の場合もあります.

 

 つまり,「非常に小さなベース電流の変化でも, トランジスタの抵抗値は大きく変化する」ということです. 抵抗値が変化すれば,当然コレクタ電流も変化しますので, 言いかえれば「小さな電流の変化で大きな電流をコントロールできる」ということになります. ・・・ぱっと思いつく例えとしては,マイクとスピーカーみたいな感じのものがあります.

 

 入力はとても小さな電気信号(マイクで拾う人の声とか)であっても,トランジスタの出力側には大きな電流の変化が現れます. 例えばここにスピーカーをつないでおけば,マイクの信号と同じ波形を持つ大電流をスピーカーに流すことができるので, 大きな音を鳴らすことができます. こんな感じのトランジスタのはたらきを「増幅作用」と呼ぶらしいです. 要はアンプです.

「スイッチング作用」とか「増幅作用」とか出てきましたが,トランジスタ動作の本質は「ベース電流でコレクタ-エミッタ間の抵抗値が変わる」という,それだけです.ただ,コンピュータなどのディジタル回路の文脈では「スイッチング作用」の話が多く出てきます.やはりディジタル回路は2値(1と0ONOFF)の話なので.それに対してアンプ等のアナログ回路の文脈では「増幅作用」の話が主役になることが多いです.

風速を変えられる扇風機を作る

では「風速可変扇風機」に触れておきます.これは敢えて言えば「増幅作用」を使っている感じになります...


可変抵抗を回すと,電池から可変抵抗を通ってトランジスタのベースに流れ込む電流が変化し

ます. それに伴って,電池(+)→モーター→コレクタ→エミッタ→電池(-)という経路で流れる電流が変化します. これを見て,「じゃあモーターに直接可変抵抗をつなげばいいだろう?」と思うかもしれません.

 おそらく,普通に売ってる可変抵抗でこれをやると燃えます.(燃えると言っても,火が出るというよりは静かに煙を吹く感じです.もちろん部品はダメになります).モーターに流す電流は数100mAくらいは必要なので, 抵抗なんて直列につなげたらそもそも電流が減少し過ぎてモーターは回りません. 逆に抵抗値が低い可変抵抗をつなぐと電流が流れ過ぎて可変抵抗が燃えます.許容電流が大きい「巻線可変抵抗」なるものを使えば,上の単純な回路で実現可能ですが,巻線可変抵抗は値段が高くて買えません?

 

 トランジスタにも「許容電流」なるものが当然あります.トランジスタにも様々なサイズがありますので, 小さいトランジスタにモーターなんかを接続すると電流が流れ過ぎて燃えます. たまに爆裂することもあるので危ないです...

 そんなこんなで,トランジスタの機能に関する大まかな説明はこの辺で終わりです.ここまでは主にバイポーラ・トランジスタを使ってトランジスタ機能の説明をしてきました.

 

バイポーラ・トランジスタと電界効果トランジスタ

回路図


ここまではずっと「バイポーラ・トランジスタ」の話だけでした.バイポーラ・トランジスタとは違う原理で動作するトランジスタとして,電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor: FET)」なるものがあります。

FET(エフ・イー・ティー)は現在MOS型のものが主流で,それはMOSFET(モス・フェット)と呼ばれています.

 

 とりあえず回路図だけ出しておきます.以下左は,バイポーラ・トランジスタのものです.

 これに対して,右はFETの回路図になっています.

 FETの3つの端子は, 「ソース(Source)」・ 「ドレイン(Drain)」・ 「ゲート(Gate)」と呼ばれます. バイポーラと対応を取ると,エミッタがソース,コレクタがドレイン,ベースがゲートという感じです. この名前にもきちんと由来があるのですが,それは後々・・・.

 

 バイポーラで言うところのNPN型トランジスタは,MOSFETでは「NチャネルMOSFET」と呼ばれます.逆にPNP型は「PチャネルMOSFET」です.チャネルって何・・・?という話は後々(かなり後)出てきます.また,MOSFETの回路図に書いてある矢印はどんな意味なのか一見しただけでは分かりません.バイポーラの矢印は電流の向きだろうなあというのは想像が付くのですが.その辺のことも後々で.

MOSFETは「電圧制御」

バイポーラ・トランジスタは「ベースに流れる小さな電流」で,コレクタ-エミッタ間の大きな電流を制御するのでした. しかし,MOSFETでは違います.

 

 回路図を見ると,バイポーラ・トランジスタはベースとエミッタがつながっています.

これに対してMOSFETでの回路図を見ると,ゲートだけ切り離されています. この回路図はトランジスタの実際の構造をそのまま表しています. バイポーラ・トランジスタはベースがエミッタ・コレクタと電気的につながっています. しかし,MOSFETの場合はゲート端子だけが浮いている(他と切り離されている)ので, ゲートに電流が流れることはありません.

 では,MOSFETのゲート電極に電池を接続した場合を想像してみます. 電池をつなげても,ゲートに電流は流れません.それでも,一応ゲート電極に「電圧」はかかっています. ・・・というわけで,MOSFETは「ゲートに電圧を印加して制御する」デバイスなんですね. 電流が流れないので省エネです. バイポーラトランジスタが「電流制御デバイス」であるのに対して, MOSFETは「電圧制御デバイス」です.

 ここまでで,「トランジスタ」という部品を外から見た場合の機能をおおざっぱに書きました.

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