1.概要
(1)端子
FETには主な3種類の端子「G:ゲート」「S:ソース」「D:ドレイン」があります。
ジャンクションFET(JFET)は通常、この3端子です。
MOSFETではさらに半導体チップ基板が4番目の端子になりますがその呼び方は「バックゲート」「バルク」「サブスレートゲート」等があり一定していません。1個1個パッケージされたディスクリート部品のMOSFETでは以上の4端子が別々に出ている品種もありますが、殆どはソースとバックゲートを内部で直結して3端子になっていて、回路図記号はその構造を反映しています。
MOS FETの内部では通常、バックゲートはp型とn型でそれぞれまとめてVddないしVssに接続されるため、回路図では省略されることもあります。
特殊なものとしては、1つのチャネルに複数のゲートがあるマルチゲート(2つならダブルゲート)のFET(マルチゲート素子も参照)や、2つのFETを組み合わせたデュアルゲートFETがあります。
高耐圧パワーMOSFETなど特殊なFETの品種を除いて、通常のFETはソースとドレインは対称であり構造的な違いはなく、電流を流す向きにより便宜的にソースとドレインとしています。ただし前述のようにディスクリートの3端子のMOSFETはソースとバックゲートが内部で直結されているため、ソースとドレインは逆に接続できません。
構造上、MOSFETのバックゲートとソースおよびドレインの間には、寄生ダイオードと呼ばれるpn接合があります。MOSFETの回路図記号の中央に書かれることがある矢印はこのダイオードを反映しています(横に別に大きく描くこともある)。パワーMOSFETで誘導性負荷やモータを駆動する際、オフ時の過渡的な逆起電力を逃すためのフリーホイールダイオードとして働かせるようにすると便利です。
(2)チャネル
FETでは、ゲートに加えられる電界で土台となっている半導体にできる空乏層の幅をコントロールしてドレイン・ソース間に流れるキャリアの量を制御し、オン・オフのスイッチングを行ないますが、その際に半導体中でキャリアが流れ、制御される部分をチャネルと呼びます。
ゲートに加えられる電圧によって空乏層の幅が広がりチャネルの幅が狭くなるとその中を通る電子の数が制限され、結果としてドレインからソースに流れる電流が小さくなります。バイポーラ・トランジスタがベースに流れる電流でコレクタからエミッタに流れる電流を制御していることを前に説明しましたが、FETではゲートに加えられる電圧でドレインからソースに流れる電流を制御しています。
簡単に言えばチャネルとは電子又は正孔が移動する通路になります。
2.分類
まず、構造に入る前に、バイポーラ・トランジスタにNPNやPNPといった種類があるように、FETにも種類があるので、確認しておきます。
(1)ゲート接合部の構造による分類
FETはその構造により「接合形」と「MOS形」に分けられます。
〇 接合形(Junction FET, JFET):
接合形は制御電極(ゲート)と、チャネルが、それぞれP形・N形の半導体でできており、ゲート部分がpn接合になっていてFETで、それらが直接接合された構造のものです。
〇 MOSFET(MOS = Metal-Oxide-Semiconductor、金属-酸化物-半導体):
MOS形は、ゲートとチャネルの間に酸化物膜を挟んだ構造のもので、ゲート金属電極の下の半導体部分表面が酸化物による絶縁膜になっています。
ICなど集積回路の現在の主流となっているFETで、特にP/N両型を相補的に利用するCMOS型が多用されています。
〇 金属半導体形(Metal Semiconductor FET, MESFET):
ゲート部分が金属電極と半導体の直接接合(ショットキー接合)になっているFETです。
(2)ゲート電圧とドレイン電流の関係による分類
〇 エンハンスメント形(enhancement type)=ノーマリーオフ形(normally off type):
ゲート電圧をかけないときはチャネルが存在せずドレイン電流が流れないものです。MOSFETのほとんどはこちらになります。回路図記号では、縦棒を区切ってノーマリーオフであることを表現しています。
〇 デプレッション形(depletion type)=ノーマリーオン形 (normally on type):
ゲート電圧をかけないときでもチャネルが存在しドレイン電流が流れるものです。逆電圧(ピンチオフ電圧)が掛かると電流が止まります。真空管の動作特性に似ています。JFETは全てこちらになります。
ディスクリートのMOSFETでは、広く市販されているものでは、極く一部の高周波小信号用の品種のみにデプレッション形のMOSFETがあります。
(3)チャネルを構成する半導体による分類
このチャネルには、半導体にn型とp型が存在するように、n型チャネルとp型チャネルの2種類が存在します。n型チャネルは導電に寄与するキャリアが電子の場合、p型チャネルは導電に寄与するキャリアがホールの場合です。
チャネルを流れる電流の担い手が、電子であるものをNチャネルFET、正孔(ホール)であるFETをPチャネルFETといいます。
改めて、電極の名前と働きの対応はいいでしょうか? ドレインとソースはそれぞれチャネルの入り口と出口です。ゲートは、チャネルに流れる電流を制御する端子です。
注意すべき点としては、導電に寄与するキャリアのタイプで呼び名を決めているため、実際のチャネルを構成する半導体のn型・p型と一致しない事がある点です。実際に、HEMTでは、チャネル部分の半導体はアンドープ
(不純物を混入させていない真正半導体)であり、MOSFETでは、n型チャネルの場合、p型の半導体中の反転層を電子が流れることになります。このチャネルの型を示すため、FETのタイプの前にnやpの文字をつけて表すこともあります(例えば、NMOS、PMOS)。
ただし、一般に使用されるCMOS(相補型MOS、Complementary MOSの略)は、NMOSとPMOSを組み合わせた構造であることを示し、CMOSと呼ばれるMOSのタイプがあるわけではありません。
3,用途
(1)スイッチング素子や増幅素子
FETはその特徴から、スイッチング素子や増幅素子として利用されます。
特にMOS型では消費電力を小さくできることに加え、構造が平面的であるため、バイポーラ・トランジスタと比較して作製や集積化(小型化)が容易です。そのため、電卓以降の電子機器で使用される集積回路では必要不可欠な素子となっています。
デジタル回路では、論理回路の基本素子として使用され、アナログ回路では、WLAN等に代表されるトランシーバーにおいて、送受信に使用される各種回路(LNA、フィルタ、ミキサ等)においても使用され、アナログスイッチや電子ボリュームなどにも応用される。極超短波以上ではシリコンよりもキャリアの移動度が高いヒ化ガリウム (GaAs) のような化合物半導体などを用いたFETが用いられている。
(2)定電流ダイオード
FETは「ゲート電圧が一定であればドレイン電流が一定」という性質を持つため、回路に直列に接続しておけば、常に一定の電流が流れる定電流素子として使うことができます。これを利用するJ-FETのゲートをソースと直結し2端子化して定電流ダイオードと称した部品があります。順方向の使用で定電流の性能を発揮し、発光ダイオードの電流制限などに利用されています。ダイオードと言う名称で、パッケージもダイオードと同じものを使っていますが本来のダイオードとは構造は全く異なり、逆方向の電流を制限する整流作用もありません。
4.そこが知りたい
[1]FETとバイポーラ・トランジスタとの違い
バイポーラ・トランジスタは、ベースに流れる電流の一定倍の電流がコレクタに流れる、という現象を利用して、電流で電流を制御する素子、でした。
一方、FETでは、ゲートという制御電極にかける電圧で、ドレインとソースという電極間にできた「チャネル」という電流の流れ道の幅を電気的に変化させて、電流を制御する構造になっています。つまり、電圧で電流を制御する素子です。
別の観点では、トランジスタではベース-エミッタ間に順電流を流しますので、ここで電子と正孔(ホール)の再結合が生じますが、FETではそれがありません。電流の担い手が、電子(NチャネルFETの場合)または正孔(PチャネルFETの場合)のどちらかです。このため、バイポーラ・トランジスタに対してFETは「ユニポーラ素子」と言うことがあります。「バイ」は2つの、という意味で、電子と正孔を言っており、「ユニ」は一つの、という意味で、電子のみ、または正孔のみを意味します。
[2]FETは「電圧で電流を制御」する素子
モノの本にはよくこう書いてある(上にも知ったような顔をして書きました)のですが、イマイチイメージがピンと来ない方、おられるかもしれません。正確な記述は半導体物理の本に出ていますが、ここではイメージを掴むために、正確さは置いておいて、大雑把に書いてみます。
ここでは電流の運び手が電子(多数キャリア)であるNチャネル形のFETを見てみましょう(Pチャネル形も電流・電圧の向きが逆で、多数キャリアがホールなだけで、原理は全く同じです)。
まず、接合形FETは下のような構造になっています。N形のチャネルに、P形のゲートがPN接合しており、チャネルとゲート間には逆バイアスがかかるようにして使用します。電流はチャネルを流れます。
逆バイアスがかかっていますから、ゲートに電流は流れません(正確には漏れ電流程度の微小電流が流れます)。
[3]FETの構造
また、接合部(MOS形では酸化物層の下)に空乏層ができていて、これが電流を制限します。逆バイアスをどんどん大きくして行くと、しまいには上下の空乏層がくっついてしまいます。この状態を「ピンチオフ」といいます。しかし不思議なことに、これで電流が全く流れなくなってしまうわけではなく、空乏層の中をある程度の電流が流れます。
その空乏層は、ソースとドレインでは、ドレインの方が高電圧、ゲートとチャネルではゲートの方が低電圧(逆バイアス)ですから、空乏層の厚さは場所によって異なり、ゲートの下でドレインに近い側が厚く、ソースに近い側が薄くなります。
一方、MOS FETの方は似ていますが少し構造が違います。最も違いが大きいのは、ゲートの電極の下に酸化物層(通常はSiO2)があることです。接合形FETではゲートに漏れ電流程度の電流が流れますが、MOS形では、この絶縁層のためにPN接合の漏れ電流すらも流れません。入力インピーダンスが極めて高い特徴があります。
電流が流れるチャネルは、ちょっと変わっていて、ゲートの直下にできる「反転層」というものが電流の通り道になります。ゲートに逆バイアスをかけると、チャネルを構成しているP形半導体の少数キャリアである電子がゲートの下に寄ってきて、ホールよりも電子の多い、逆転層を作り出します。ここが電流の通路(チャネル)になります。この逆転層の厚さがゲート電圧によって変化するため、電圧で電流が制御できる、というわけです。
[4]高周波増幅向きのGaAs FETとは?
シリコンではなく、ガリウムと砒素の化合物を材料とする半導体です。通称「ガリ砒素」と呼ばれています。このような異種の元素からできた半導体を、化合物半導体といいます。この化合物内での電子やホールの移動速度が、シリコンに比べて数倍から10倍程度大きいので、高速動作が可能です。加えて、低雑音である、ということも利点です。
じゃあ、ガリ砒素でCPUを作れば、超高速のパソコンができるんじゃないか…なんて雑談ですが。ガリ砒素基板自体のコストが非常に高いことと、加工や微細パターン描画などの製造技術がシリコンより困難なこともあって、多分今と同じCPUは無理でしょう。ガリ砒素のMOS構造なんて聞いたこともないので、消費電力も低くはできないでしょう。
でも、衛星放送を小さなパラボラアンテナで受信したり、430MHzでEMEをやろう、なんていうと、俄然存在意義が出てきて、必ずと言っていいほど、このガリ砒素FETが高周波増幅段に使われます。また、熱にも強いので、携帯の基地局などのハイパワーアンプにも用いられます。
[5]デュアルゲートFET
高周波用FETの一部には、ゲートが2つあるものがあります。一般的な使い方としては、第1ゲートを信号入力に、第2ゲートを交流的に接地して使います。
もう少し具体的に書くと、下図の左のようになります。負荷抵抗はドレインに繋ぎます。
すると、この回路はあたかもソース接地回路とゲート接地回路がシリーズに繋がったような回路(下図右)として動作し、高周波増幅回路としては「いいとこ取り」をしたようなものになります。
では、何が「いいとこ」なのかを見て行きましょう。
予備知識として必要なのは、トランジスタ増幅での各接地方式と周波数特性、入力インピーダンス等の関係と、端子間容量の存在です。