スペアナモドキ、ラジコンの発射電波を目で見てみたい
1. 前書き
おもちゃの修理をしていると様々な測定器が欲しくなります。
テスターは必須のものとして殆どの方が持っていると思いますがそれ以外の物は中々手が出ません。
理由は「必要性」と「高価だから」です。
ATH004型テスターは講習の時に作っていただきましたから皆さんお持ちだと思いますが、使い方について熟知している方は何人いらっしゃるでしょうか。
折角持っているのですから頑張ってマスターして下さい。
今回は、オシロスコープに似てはいますが用途の違うスペクトラム・アナライザの簡易版、モドキとでも言いましょうかをご紹介したいと思います。
電波が目で見える。これはおもちゃの修理を行っている者としてはとても嬉しいことです。
ただ単に電波が放射されているかだけではなくどのような周波数で、どのような具合に、どのぐらいの強さでと言うようなことが簡単に解れば次のステップの修理に向けて大きな、重要な情報を得る事が出来ます。
ご紹介するのは、ワンセグテレビ用のチューナーとして、時には極めて安価に販売されているものを改造することなしにソフトウェアの導入だけで広帯域受信機にしてしまい、あわよくばスペクトラムアナライザ・モドキとして利用しようという話です。
このようなタイプの受信機をSDR(Software Defined Radio)と言います。SDRは、これまでの受信機の概念を大幅に変えるもので、信号処理の大部分を専用チップとソフトウェアで実現しています。コイルとコンデンサで目的周波数に共振させて電波を取り出し検波(復調)して信号を取り出すといったことはやりません。
まな板の上に載ったのはゾックス社のDS-DT308SVというワンセグチューナーです。
6年ほど前に千石電商の店先で投げ売りされていたものを購入し、そのままほったらかしになっていたものですが、今回使ってみたら意外にいけるんじゃないかと言う感じがしました。
DS-DT308SVはご覧のようなものです。
USBメモリとほとんど変わらない大きさです。
DS-DT308SVを普通に買うと「ドングル」、「アンテナ」、「アンテナ接続ケーブル」と「CD」「取扱説明書」がついてきますが、CDと取扱説明書は使いません。ワンセグTVとして使われる方はこのCDからソフトを導入していただきますが、今回は目的が違うのでこのCDは必要ありません。
2. ハードウェア
DS-DT308SVの筐体を開けるとご覧のようになっています。
左から全体図、RTL2832Uチップ、FC0013チップになります。
ご覧の通りカスタムチップと抵抗、コンデンサ、水晶だけで構成されておりこれで大丈夫なの?と言った感じです。
さて、これをSDR受信機化するわけですが、USBワンセグチューナーなら何でも良いわけではありません!
RTL2832Uと言うADC(アナログデジタルコンバーター)チップが搭載されている機種に限ります。
国内で簡単に入手できるのは、DS-DT305(チューナーチップはFC0012)、DS-DT310(同FC0013) LT-DT306(同FC0012)、LT-DT307(同FC0012)、LT-DT309(同FC0013)です。但しFC0012チップは、ゲインコントロールにバグがあるのであまりお勧めではありません。
海外で販売されているのが、DVB-T EzTV666 EzTV668 P160などです。このチューナーチップは、E4000です。E4000は時間と共に発熱して感度の低下が顕著に現れますので、こちらもお勧めできません!
現在USBワンセグチューナー最強の感度を誇るのがR820Tチューナーチップでこれを搭載しているのがTV28Tv2DVB-T(R820T)、DVB+DAB+FM(R820T)です。上記を含めアマゾンその他で入手可能です。
各チューナーに使用しているチューナーチップの種類で感度、受信周波数、その他が違ってきます。
大体24MHz位~1.7GHzと言ったところです。
Tuner | Frequency |
Elonics E4000 | 52 - 2200 MHz with a gap from 1100 MHz to 1250 MHz (varies) |
Rafael Micro R820T | 24 - 1766 MHz |
Rafael Micro R828D | 24 - 1766 MHz |
Fitipower FC0013 |
22 - 1100 MHz (FC0013B/C, FC0013G has a separate L-band input, which is unconnected on most sticks) DS-DT308SVはこれ、1.1GHz迄となっているが1.7GHzはいけるようです。 |
Fitipower FC0012 | 22 - 948.6 MHz |
FCI FC2580 | 146 - 308 MHz and 438 - 924 MHz (gap in between) |
3. ソフトウェア
3.1 ダウンロード
必要なソフトはZadig社のZadig2-4.exe、AirSpy社のAirSpy(sdrsharp-x86.zip)の二つです。
Zadig2.4.exe: https://zadig.akeo.ie/ から入手できます。
Zadigの最新版はZadig2.5.exeです。多分これでも構わないと思いますが、次のバッチファイルの実行時にZadig2.4.exeを要求されますので、Zadig2.4を「Other versions」からダウンロードします。
続いてSDRソフトをダウンロードします。
Sdrsharp-x86.zip: https://airspy.com/download/
からダウンロードしてください。
上のダウンロードボタンを押すとダウンロードが始まります。
Cドライブの適当なところに実行用のフォルダーを作成してその中にダウンロードしたファイルをコピーしておいてください。
(cf:c:¥SDRSharp)
Zadigの最新版は Zadig2.5.exe です。
Zadig2.4.exe はother versionsの中にあります。実行ファイルですので解凍する必要はありません。
AirSpyはZipファイルですので 実行用フォルダーに展開しておいてください。
以下の手順でインストールします。
3.2 インストール
1)Sdrsharp-x86.zipを展開してあれば実行用フォルダーの中に
” install-rtlsdr.bat ”と言うバッチファイルが出来ていますのでダブルクリックしてください。
2)CMDウィンドウが開きbatファイルが実行されます。
この表示の後、ちょっと時間がかかるようですのでお待ちください。
ここで実行中のバッチファイルから「zadig-2.4.exe」を呼び出しているのが見えます。
何かキーを押してくださいと表示されたら、指示に従ってキーを押しbatファイルの実行を終了します。
3)USBポートにDS-DT308SVを挿入してコンピュータにドングルを認識させます。
「新しいデバイスが見つかりました。」と言ってデバイスドライバのインストールが開始されたらキャンセルしてください。コンピュータが間違って認識しています。
4)Zadig2.4.exeを実行します。
上のボックスに「RTL2832U」と表示され矢印の右に「WinUSB(v6.1.7600.16385)」と表示されていることを確認して下さい。
上のボックスに違う表示が出ていたり何も表示されていなかったら「Optionsタブ」を押して「All of Lists」を選択します。ボックスの右端の下向き矢印をおすと「RTL2832U」がドロップダウンリストにあるはずですので、それを選択します。
選択し終わったら「Install Driver」のボタンを押してください。
デバイスドライバのインストールが開始されます。
インストール実行中
「Installing successfully」と表示されたら終了です。
これでデバイスドライバとSDRソフトウェアがインストールされました。
4. 起動
実行用フォルダの「SDRSharp.exe」を起動します。
AirSpyの起動には時間がかかります。ウィンドウズの「ガラス ウィンドウ フレーム」表示で「AIRSPY」が表示されます。我慢してお待ちください。
最初は上の画面のようになります。Defaultの画面です。まだ受信は始まっていません。
ここまで行けばインストールは大体成功です。
橙色の枠で囲ったところが使用するデバイスの名称になります。この画面ではデフォルトの「AirSpy」になっていますのでこれを変更します。枠内の右端に▼ボタンがありますのでクリックします。ドロップダウンメニューに「RTL-SDR(USB)」と出ますのでそれを選択してください。
左上の右向き△ボタン(Start、Stopボタン)を押すと受信が始まります。
上がスペクトラム・アナライザ画面、下がウォーターフォール画面になります。
スペアナ画面の「角(つの)」はそこに電波があるということを示しています。電波の強さが画面上の高さになります。
デフォルトのままではRFゲインが最小になっていますので上部の「歯車マーク」をクリックしてください。
RTL-SDR Controllerのサブ画面が開きます。
下のほうに「RF-GAIN」と言う項目がありますのでスライダーを右に動かして最大にしてください。
ゲインが大きすぎる場合には適当な位置に留めて下さい。
最下部の「Close」を押せばサブ画面は消えます。
周波数を変えてFM放送のバンド帯に持って行ってください。
周波数の変え方は次で説明しています。
FM東京を見ているところです。
最上部に設定した受信周波数が表示されています。
カーソルがあるところが80.000MHzのFM東京です。ピークがあるところがなにがしかの電波が検出されているところで79.5MHzがFM-NACK5、80.7MHz辺りがNHK-FM(千葉)になります。
イヤフォーンをセットして聞けば放送が聞こえます。
次に私たちの狙いとしているところのスペアナモドキを試みます。
周波数を変えるには周波数表示の各桁の数字の上部をクリックすれば数字が1つ上がり、数字の下部をクリックすれば1つ下がります。
6. 発射電波の観測
ラジコンでよく使われる27.145MHzをセットしてみます。
カーソルのある位置が27.145MHzですが、何も受信していません。
右と左の山は左が文化放送の中継用電波、左は不明ですがNHKの中継用臭いです。
ラジコンのコントローラから電波を出してみます。
TX-2を使ったコントローラの前進用電波です。
27.145MHzのところに鋭いピークが出ています。矩形波でアナログ変調していますので裾野が広くなっています。ウォーターフォール画面では最初に2つパルスの後に小さいパルスが連続して観測されています。確かではありませんが最初の2つがスタートパルス、続いての小さいパルスが前進コードと思われます。
右側の「Zoom」スライダーを動かして表示する周波数帯域を狭めてみます。
こうすると画面上は電波が広がって見えます。
中心周波数が27.145MHzで変調された側帯波が±300KHz以上に渡って広がっています。矩形波は非常に広い周波数成分を持っていますのでその様子がよくわかります。
SDT2000と言うエンコーダーの場合はどうでしょう。
SDT2000の送信波です。前進モードです。
前と同様にこれも解析していませんが、非常に広い側帯波を持っていますし、スペアナ画像のほうで細かいピークがたくさん観測できますので信号波は矩形波(パルス)であろうという事が出来ます。
中心周波数はややズレています。(水晶の銘板は27.145MHzですが表示は24.147697MHz、2.7KHzほどズレが生じています。
前の画像で確認できた制御コードらしきものは観測できていません。SDT2000のフォーマットはどうなっているのでしょう。
このようにして発射されている電波の周波数や送信電波の質までが容易に観測できるということは素晴らしいことではありませんか。
今回は目指しているところが「スペアナモドキ、ラジコンの発射電波を目で見てみたい」、なのでその目的は十分に達成できる可能性があることが分かりました。
あとは使う人が原理を理解して観測データを如何に読み解くかにかかっています。
本SDRはこれ以外にも様々な電波をとらえて表示してくれるようです。
Webを漁ればそれこそいろいろな用途に使われている情報が得られると思います。
ちなみにここで紹介したドングルはAmazonやe-Bayで購入する事が出来ます。ご興味のある方はどうぞ!!